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第24回定期演奏会 曲目解説

交響曲ってなあに?《第九》ってなあに?

1.交響曲の生い立ちとベートーヴェンの交響曲

♪ベートーヴェン以前の交響曲
音楽史上、今日交響曲を指す Sinfonia(シンフォニア)というイタリア語が初めて現れたのは 16世紀の終わりで、多声部器楽曲の意味でした。「交響曲」という日本語は森鴎外の訳です。やがてシンフォニアはイタリアでオペラの序曲や<急-緩 -急>の三楽章を持つ、オーケストラ曲を指す言葉として定着します。後にドイツ語圏に流行、このなかで舞曲の一楽章を挟んだ四楽章構成の交響曲が現 れるのです。ベートーヴェンの先輩作曲家、J・ハイドンは 106曲、W.A.モーツァルトは 50曲余りの交響曲を生涯作曲しました。18世紀の交響曲は音楽会の開始や終了を告げるお客の出入りの曲だったのです。ただし毎回、新作交響曲を用意する 必要があったので、せっせと交響曲を作曲したのでした。18世紀末になってようやく交響曲は演奏会のメインディッシュとしての地位を得ます。

♪ベートーヴェンの交響曲

ベートーヴェンは最初から交響曲を大作として意識していました。先輩達が一週間あまりで作曲したものを二、三年かけて 1曲作曲したのです。先輩が若年から作曲していたのに比べて、彼が交響曲第一番を書いたのは 30歳になってから。先輩達の交響曲が日々提出されるレポートとすれば、ベートーヴェンにとっては大博士論文といった感覚だったのでしょうね。
♪ベートーヴェンの交響曲の特徴ベートーヴェンは交響曲で先輩の交響曲や自作の旧作を凌駕することを常に意識していたようです。その特徴には練りに練った 楽想以外に、オーケストラの拡大や今まで交響曲にあまり用いられなかった楽器の採用、楽器の演奏の可能性の追求、演奏時間の拡大、などが挙げられます。
 

2.ここがスゴイ!第九交響曲

♪合唱を交響曲の中に導入!
ベートーヴェン以前にも合唱を採用した交響曲というものはあったのですが、今でも演奏会に取り上げられる交響曲としては世界最古でしょう。

♪構想から 30年!
ベートーヴェンがこの交響曲の合唱終曲の歌詞、《歓喜に寄せて》に作曲をしようとしている、と記した手紙が 1793年の日付で残っています。そして完成が 1824年!実に 30年の時が経てからこの曲は完成するのです。

♪1000小節を越える!
第二楽章は繰り返しを入れると 1400小節弱、第四楽章は 940小節。一方モーツァルトの最後の交響曲の終楽章は 423小節、ハイドンのものは 334小節(104番)。

 

3.ここを聴くべし!第九交響曲

♪第一楽章:
激しさの中に優美な旋律が見え隠れする第一楽章。実はオーケストラにとって、音の小さい部分の表現が難しいのです。ワーグナーが当時のドイツでは満足に演奏されていなかったと書いた、曲前半110小節目からの部分(譜例 1)、曲の後半の救いの響きのようなホルン(譜例 2)や最後の緊張感など、日本 IBM管弦楽団の健闘に乞うご期待?!

(譜例 1)

 

 

 


♪第二楽章:
ティンパニ協奏曲のようなティンパニが大活躍する、躍動感が持ち味の楽章。ダイナミックなリズムを楽しんでください。木管楽器の妙技にも注目。中間部の最後に今迄休んでいたトロンボーンの出番がちょっぴりあるのもお聞き逃し無く!

♪第三楽章:

《第九》のなかでもっとも優美な楽章。特に木管楽器のアンサンブルとホルン四番のソロ、弦楽器の美しさが聴き所。♪第四楽章:

合唱やソリストの独唱はもちろん、冒頭のチェロとコントラバスの活躍にも注目!この楽章で初めてコントラファゴットと打楽器が登場します。どこで登場するのか?というのも注意して見てみましょう。 《第九》より詳しく知りたい方、より楽しみたい方には、さまざまな《第九》のウンチク満載!拙著「《第九》虎の巻」歌う人・弾く人・聞く人の為のガイドブックをお求めください。本日会場にて特別価格 2000円でお求めいただけます。

ブラームス / 運命の歌 作品54

♪「運命」

クラシック音楽で「運命」と言えば、ベートーヴェンの第5交響曲「運命」、そう、あの ンジャジャジャジャーンで始まる交響曲です。ドイツ語で は、"Schicksalssinfonie"と呼ばれています。最初のSchickaslsが運命、sinfonieが交響曲ですね。この演奏会でお聞 きいただくのは、"Schicksalslied"です。最初は運命 liedは歌ですから、「運命の歌」となるわけです。実際、名前が似ているだけではありません。この「運命の歌」の始まりの部分には、ティン パニの低い音で、「タン タタタ タン」というベートーヴェンの「運命の動機」を思わせるリズムが、しばらくなり続けます。ベートーヴェンを尊敬していた ブラームスが、ベートーヴェンの交響曲を意識しなかったはずはなく、この曲を作曲したときに、自然にこのリスムが頭に浮かんだのでしょう。

♪三つの部分

この曲は混声四部合唱とオーケストラの曲です。ドイツの詩人、思想家のフリードリヒ・ヘルダーリンの小説「ヒュペーリオン」の中で主人公が歌う歌詞を使っ ています。ヘルダーリンの歌詞は3部から成り、最初の2部は天上の世界の明るさ、清らかさ、やすらかさを描き、最後の部分で過酷な地上の生活を描いていま す。本日の指揮者、曽我大介先生の対訳をご参照くださるとわかりますが、歌詞の分量として、天上2対地上1の比率になっています。ブラームスの「運命の歌」も3部から成りますが、面白いことに歌詞の最初の2部(天上の世界)はまとめて第1部としてしまい、過酷な地上の生活を第2部と して扱い、短い第3部はオーケストラだけで第1部の回想をする構成にしています。平和な世界を描いている第1部はブラームスらしい音楽があふれており、魅 力的なのですが、この曲のパワーが現れるのは過酷な地上の生活を描いた部分です。「断崖から断崖に打ちつける水のように、、、溶けていくのだ。」という歌 詞の内容を、人の声の持つ圧倒的な迫力で表現したブラームスの作曲の力には驚くほかありません。ブラームスは平和で穏やかな天上の生活よりも、苦しみのた くさんある地上の生活の方に、より近いものを感じ、表現の意欲が昻まったのかもしれません。ヘルダーリンの歌詞は、その過酷な生活で終わっているのです が、そこに天上の生活を合唱のないオーケストラだけの回想の形での第3部として付け加えたのがブラームスのアイデアで非凡な効果をあげています。言ってみ れば元の歌詞の結論を変えてしまったということになるのかもしれませんが。

♪曲の終わりの聴きどころ

曲が始まって聞こえるティンパニによる「運命」を思わせるリズムですが、これは後に出てくる地上の生活過酷な運命をあんじするものなのか、それとも天上の 生活と言えども運命を逃れることができない、ということなのか、いずれにしても天上の楽園での生活であるはずなのだけれども、何か重苦しいものが感じられ るのは、このリスムのせいです。第3部の回想が始まった瞬間にはこのリズムは現れません。それが第3部の始まったとき解放された安らぎを覚える理由です。 しかしブラームスは許してくれません。曲が終わる直前にティンパニが二回だけ「運命のリズム」をたたきます。どこまでも「運命」からは逃れられないのだと 言っているようにも思えます。大きい音ではありませんので、お聴きのがしのないように。

♪「運命の歌」の蘊蓄

「運命の歌」は、ブラームス37歳の時に初演された、合唱と管弦楽のための曲です。広く演奏されている交響曲や協奏曲を作曲する前です。ブラームスは20 歳代の初めにデトモルトで女性合唱の指揮者をしていたこともあり、多くの合唱曲を作曲しています。この曲の前には広く演奏されている「ドイツ・レクイエ ム」「アルト・ラプソディー」を作曲しています。ヘルダーリンの小説「ヒュペーリオン」の中では、ギリシャ人の青年である主人公ヒュペーリオンが「少年のころに作った歌をリュートを取り出して歌った」と あります。ヒュペーリオンはトルコの圧制から祖国を解放する戦争に参加しますが、戦争の実態に失望し、帰国する途中で、恋人ヂュオティーマからの死を予告 する手紙を受け取ります。手紙を受け取る直前に歌うのが、ヒュペーリオンが少年のことに作ったこの歌ということになっており、あたかもその死の予告の手紙 を予感したようにも受け取れます。ブラームスは、書かれている歌詞全部を使って作曲しました。

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