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第13回定期演奏会 曲目解説

ミハイル・グリンカ/歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲

 ロシアの作曲家グリンカは、しばしば「ロシア国民楽派の始祖」と呼ばれ、ロシア五人組や今回交響曲第4番を取り上げるチャイコフスキーなど、多くの作曲家に影響を与えました。そして、彼のもっとも有名な作品のひとつがこの歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲です。
 歌劇「ルスランとリュドミラ」は、ロシアの小説家でグリンカの友人でもあったプーシキンが書いた同名の長詩を題材にしています。
 物語は古代ロシア、キエフ公国が舞台となっています。キエフ公国、スヴェトザール公の娘リュドミラに3人の求婚者が現れ、その中からキエフ公国騎士のル スランが選ばれ、結婚することになります。しかし、婚礼の宴席の最中に、悪い魔法使いのチェルノモールが現れ、リュドミラをさらってしまいます。そこでス ヴェトザール公は、「娘を助け出した者に娘を与える」と宣言し、3人の若者はリュドミラを助けるため旅に出ます。最終的には、ルスランが幾多の危機を乗り 越えリュドミラを助け出し、二人は無事に結ばれます。
 曲はソナタ形式で書かれています。第一主題部は第5幕最後の婚礼の場面に先立つメロディが使用されています。せわしなく駆け巡るTuttiで始まり、や がてヴァイオリン、ヴィオラ、フルートに颯爽としたメロディが現れ、発展してゆきます。そして、第2主題として、第2幕の「ルスランのアリア」から採られ た、ゆったりとしたメロディが、ヴィオラ、チェロ、ファゴットにあらわれます。展開部の後、弦楽器が激しさを増しながら次第に盛り上がり、第一主題と第二 主題が再現され、コーダへと突入します。コーダでは、魔法使いチェルノモールを象徴するメロディとして、全音音階を用いたメロディが先進的に使用されています。

 

 

セルゲイ・ラフマニノフ/ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 作品18

 若くして作曲家としての才能を認められていたラフマニノフでしたが、24歳のとき彼に挫折が訪れます。交響曲第1番の初演が失敗に終わったのです。失敗の原因はともかく、それから数年間、彼は作曲ができませんでした。
 そんな彼に立ち直るきっかけを与えたのは催眠療法医N.V.ダーリでした。アマチュアの音楽家でもあったダーリは、ラフマニノフと音楽について語り、彼 の心を開かせた上で、彼に自信を取り戻させるよう働きかけました。こうして、創作へのエネルギーを蓄えたラフマニノフが沈黙の壁を破り、遂に完成させたの が、このピアノ協奏曲第2番だったのです。
 闇の中で響く鐘のような音で始まり、歓喜のフィナーレで終わる曲の展開は、その時のラフマニノフ自身の姿と重なるようです。彼はこの曲をダーリに捧げました。
 第1楽章:鐘の音を思わせるピアノの和音に続き、オーケストラによって演奏される第1主題のメロディは、楽章後半のクライマックスでやや行進曲調で再現し、美しいピアノソロに引き継がれる。
 第2楽章:ピアノの三連符によるアルペジオと甘美で幸福な管楽器のメロディ(後半、弦・ピアノと役割を交代する)のかけあいが美しい。アルペジオは3拍子のような音形を形成し、4拍子のメロディを幻想的に演出する。
 第3楽章:冒頭のリズミカルな旋律に続き、どこかエキゾチックで印象的なメロディが登場する。フィナーレではオーケストラとピアノが一体となりこのメロディが高らかに演奏される。
 華麗で美しい旋律にあふれるこの協奏曲ですが、ピアニストにとっては難曲なのだとか。「神の手」といわれるほど大きな手を持ち、自身が一流のピアニスト であったラフマニノフは、手の小さなピアニストには過酷な和音を容赦なく使っているそうです。本日は期待の若手ピアニスト、魚谷絵奈さんの独奏でお楽しみ ください。

 

ピョートル・チャイコフスキー/交響曲第4番ヘ短調 作品36

この曲は、ホルンとバスーンによる「運命」のファンファーレで幕を開けます。
そこから繰り広げられる世界を語る上で2人の女性の存在は無視できません。
まず夫人のアントニナです。
この曲に着手した1877年、彼女の突然の求愛とパワーに圧倒されて結婚したものの、忽ちそれは破綻します。彼女は世俗的な人間で、この作曲家の知性や感 受性、そして鬱屈した複雑な心の奥底を理解する存在ではありませんでした。絶望した彼は、妻の元を離れてコーカサス地方や、ウィーン、フィレンツェそして サンレモにて逃避生活を送りますが、その間入水自殺まで試みます。彼女を評するエピソードとして後に3人の私生児を作り養育費を請求する話がよく紹介され ますが、人生の伴侶としての期待を既に失ったチャイコフスキーの心情はこの曲にも色濃く影響を残しています。
そしてフォン・メック夫人です。
鉄道経営者でもある裕福な彼女は彼の作品に心を奪われ、無償の援助を申し出ます。経済的援助を得て自由に作曲活動に専念する事が出来た彼は、最初にこの交 響曲第4番を彼女に捧げます。二人の意思疎通は全て文通であり、その奇妙な関係は14年間続きましたが、特にこの曲を作曲した時期は妻の問題で疲弊してお り、メック夫人の心情面での援助も大いに救いとなったことが手紙で読み取れます。
さて、曲の説明についてはその手紙から作曲家自身の言葉で紹介してもらいましょう。
第1楽章:
幸福、慰安への想いが妨げられ、暗雲が広がる。それは嫉妬深く宿命的な力をもっている。(ヴァイオリンとチェロの)第1主題で絶望が激しくなり、逃避して 夢に浸る。(木管楽器の)第2主題で甘く柔らかな夢が我々を包み、明るい世界へと誘う…しかしそれは夢だ。「運命」は我々を残酷に呼び戻す。
第2楽章
「悲哀」とは、例えば仕事に疲れ果てて夜中に独り佇み、憂鬱に包まれた感情の事である。そんな時、多くの思い出が湧き出し「こんなにも多くの事が過ぎ去っ てしまったのか」と感じるのはいかにも悲しい。我々は過去を嘆き懐かしむが、新しい生き方を始めるだけの勇気が無い事に気付く。
第3楽章:
この楽章は、気紛れ、唐草模様、酩酊の状況を示す。狂喜と悲嘆が交錯し、酔っ払いの百姓の祭りと軍楽隊の響きも交わる。それは現実とは離れた夢想の世界に見える。
第4楽章:
もし歓喜を見出せなかったら、人々の中、祭りの中に入るとよい。彼等が「生」をいかに楽しみ歓楽に身を打ち込んでいる事か。しかしふと「運命」は再び目前 に登場する。その時、誰もあなたの持っている「悲哀」を感じない、そして皆が無邪気で単純で嬉しそうな夢の中の存在に見えてしまう。そうであってもあなた は「世は悲哀に沈んでいる」と断言できようか。否、幸福はそれでも尚存在するのだ。実際に人々の中に入って人々の幸福を喜びなさい。それが生の道なのだ。
チャイコフスキーの手紙にはこの曲に対するたくさんのキーワードが並んでいます。ここでは象徴的な例を紹介しましたが、彼の文章の才は音楽のそれには及び もつきませんからやはり音楽の中に本当の想いが籠められているはずです。本日は彼の様々なメッセージを演奏から感じて頂けたら幸せです。

 

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