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第15回定期演奏会 曲目解説

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト/歌劇「劇場支配人」序曲 K.486

 「劇場支配人」は、モーツァルト30歳の1786年初、歌劇「フィガロの結婚」(K.492)の作曲の合間に書き上げられたドイツ語による'音楽付喜劇'とも称すべき作品です。

 初演は同年2月7日、ウィーン郊外・シェーンブルグ宮殿・オランジェリー(大温室)において、オーストリア皇帝・ヨーゼフ二世による義弟(オランダ総 督)夫妻への歓待として行われました。当日はその後、サリエリの作曲によるイタリア語オペラ「初めに音楽、次に言葉(台詞)」が隣のステージで競演されま した。サリエリは、映画「アマデウス」で「内心、誰よりもモーツァルトの傑出した才能を畏敬し恐れた」悪役として描かれたヨーゼフ二世お抱えのイタリア人 宮廷作曲家です。

 歌劇は1幕10場から成り、支配人役は歌わず語りのみで、歌と台詞の配置は'競演相手'の演目タイトルとは逆順となっています。前半6場までは、主役獲 得とギャラ吊り上げを目論む俳優・女優達とそのパトロンによる台詞だけで構成され、第7場から、プリマドンナを争う二人のソプラノ歌手、仲裁役のテノール 歌手、支配人の相談相手である俳優(バス)によって以下の4曲が歌われます。①②のアリアはソプラノの美しさを存分に際立たせる美しい曲で、③④もモー ツァルトの他の有名オペラを凌ぐ程の聴き応えのあるものです。

 

① アリエッタ: 往年の名ソプラノ歌手の自己の若き時代の恋への想い。

② ロンド: 野心旺盛な実力派若手ソプラノ歌手の好戦的な自薦と競合相手への誹謗。

③ 三重唱: 「私こそが、プリマ・ドンナに!」との口論とテナー歌手による仲裁。

④ ヴォードヴィル: 「とにかくステージに立てないことには・・・」との全員の現実的な妥協。

 以上から、この歌劇は、モーツァルト対サリエリ、ストーリにおける自薦他薦の登場人物同士、そして、この歌劇の実演奏における二人のソプラノ同士・・・という三種の競演を孕んでいます。

 この年のモーツァアルトの作曲活動は大変活発で、主要な作品だけでも、「フィガロ」に加え、ピアノ協奏曲3曲(その中の一曲は本日のプログラムの2曲目 のK.488)を完成させ、歌劇「ドン・ジョバンニ」にも着手しています。その絶頂に加えサリエリへの対抗心もあってか、この序曲は、完全なソナタ形式 (第1主題→第2主題→ 展開部→再現部)を持ち、喜劇本体に不釣合いな程の重厚な力作で、前述の四曲の歌曲同様、「フィガロの結婚」序曲にも劣らない爽 快な名曲と言えます。

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト/ピアノ協奏曲第23番 イ長調 K.488

本日は2曲目もモーツァルトです。この曲が作成された1786年には、オペラ「フィガロの結婚」や交響曲第 38番「プラハ」などの名曲が作られていて、まさに乗りに乗っていた時期だったことでしょう。そんな時期に作られた曲ですから、傑作でないはずがない!何度も聞いている方も、初めて聞く方も、クラシックって本当にいいですよね、と思わず言ってしまいたくなるような演奏になるよう、精一杯努力いたします!

 

第1楽章:アレグロ

ピアノ協奏曲の主役はもちろんピアノです。この1楽章、最初はオーケストラによる演奏のみでピアノがしばらく出てきません。ピアノが出るまではいいや、と 気を抜いているそこのあなた!油断してはいけません。この1楽章は最初にオーケストラが奏でるメロディが、繰り返される形でピアノが登場します。流れるよ うなオーケストラのメロディが、ピアノだとこうなるんだ、やるなモーツァルト!と心の中で呟きながら聞いてみるのも面白そうではありませんか?また、後半 にはカデンツァと呼ばれるピアノによる独奏部分があります。自由奔放にピアノが奏でられる様も必聴です。

 

第2楽章:アダージョ

シチリアーノという舞曲のリズムで書かれている楽章で、ゆったりとした静かな曲です。ピアノの美しいメロディで始まり、途中にクラリネットとフルートがこ れまた美しいメロディでハモったりピアノと掛け合いをしたりと、とにかく終始美しい曲(になるはず)です。あまりの美しさにうっかり寝てしまう、なんてこ のとのないように注意しましょうね。

 

第3楽章:アレグロ・アッサイ

2楽章とは打って変わって軽快なロンドの曲です。ロンドとは最初のメロディ(1番目)が1番目-2番目-1番目-3番目というように他のメロディと交互に 何回も出て来るというもので、この楽章でも最初のピアノのメロディが1番目のメロディにあたります。ということでロンドだと思って、このメロディがいつ 戻ってくるのかな~、と聞いておりますと、なんとなかなか戻ってきません。2、3、4、と様々な軽快なメロディが次々と繰り出され、忘れた頃に1番目のメ ロディに戻ってきます。モーツァルトの頭に浮かぶメロディが、あふれんばかりに入ってしまったのでしょうね。

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン/交響曲第7番 イ長調 作品92

 57歳でこの世を去ったベートーヴェンの42歳の時に8番と並行して作曲したのがこの7番の交響曲です。 ちなみに3番「英雄」は34歳、5番「運命」と6番「田園」は38歳。「第九」はずっと飛んで54歳です。この7番の交響曲を一言で表現するならば「気が ついたら本気の音楽」だと私は思います。第1楽章の旋律が「のだめカンタービレ」のテーマ音楽にも使われたので、ご存知の方も多いでしょう。

 

 第1楽章はゆったりとした序奏で始まります。すてきな旋律がオーボエとフルートに出てくるのですが、これは007ボンド映画のオープニングのようなもの で本筋に直接関係があるわけではありません。本筋(主部)はフルート・オーボエが、タンタタン、タンタタンというリズムを刻み、フルートがこのリズムを 使った軽快なメロディー(第1テーマ)を鳴らすところから始まります。その後はこのリズムが手を変え品を変え、さまざまな楽器にさまざまな表情、高い音か ら低い音まで出てきて、気がつくと全オーケストラが半狂乱になっているのがわかるでしょう。特に本気度全開のホルンに注目。耳に自信のある方は、タンタタ ン、タンタタンと演奏している場所とタッタタッ、タッタタッと弾いている場所を聴きわけられるでしょうか。それから、目に自信のある方々は、左手前に座っ ているファースト・ヴァイオリンの人たちが第1テーマを一生懸命弾いている時に、その奥に座っているセカンド・ヴァイオリンと右手前のヴィオラの人たち が、文字どおり必死に忙しく弓を動かして、音をきざんでいるのに注目してみてください。実は少しあとに音楽が静かになるのですが、この人たちはそこでも休 むことなく細かく音をきざんでいます。この「きざみ」が、そのままだとのんびりしてしまう音楽に不穏さと切迫感をもたらし、気ぜわしく次に突き進む推進力 となっているのです。見ていると、その大事な「きざみ」が聴こえてくるはずです。最後はホルンとトランペットの号令の下、全員が地響きを立ててゴールに駆 け込みます。

 

 第2楽章は打って変わって静かに始まります。最初の管楽器の和音を覚えておいてくださいね。ヴィオラ、チェロ、コントラバスでリズムだけを刻んでいるよ うな旋律が印象的です。姿勢を正して、少し物思いにふけりながら一歩一歩進んでいくような音楽は、すぐにセカンド・ヴァイオリンに移るのですが、その時に ヴィオラとチェロに出てくる印象的な対旋律の始まりはこの楽章の聴き逃せない一瞬です。この二種類の旋律の組み合わせはだんだん高い音の楽器に移り、気が つくとやはりただごとでない音楽になっています。中間部はクラリネットの息の長いメロディーに注目。できれば一息で吹きたいメロディーなのですが、そのま ま息を取らずに吹くと目の前が白くなってくるので危険です。最初の二種類の旋律が再び演奏され、最後は冒頭の管楽器の和音が出てきて静かに終わります。

 

 第3楽章の「ただごとでない音楽」は中間部のトランペットの高く長い音の吹き伸ばしでしょう。ティンパニの助けを借りたファンファーレは本当にかっこい いです。この楽章の最初から始まるちぎっては投げ、ちぎっては投げといった感じの忙しい音楽(A)、中間部のちょっともったいぶった音楽(B)を、全部ト ランペットが吹き飛ばしてしまうはずです。(トランペットの皆さん、この解説がウソにならないようがんばってくださいね。)構成としては、 A-B-A-B-Aとなっていますが、最後にBがちょっと顔を出しかけて、「あれ、まだ続くの?いい加減にしてよ」と思った瞬間に終わります。ベートー ヴェンが日本語を知っていたはずはありませんが、最後の5つの和音は「お・わ・り・で・す」に聞こえなくはないですね。

 

 第4楽章は最初から忙しい音楽全開です。出だしを聞くと「これでも十分忙しいし迫力もある」と感じるのですが、いやいやベートーヴェンの本気度はその程 度ではありません。熟練のベートーヴェンのあの手この手によって、オーケストラのメンバーも聴き手も気がつくと音楽の洪水に巻き込まれているはずです。こ こでも第1楽章でがんばってくれたセカンド・ヴァイオリンとヴィオラの人たちの「きざみ」が、オーケストラ全体を支えています。第1楽章よりももっと忙し い音楽が書かれているので、限界に近いのではないかと思います。本気のベートーヴェンにつきあうのは本当に体力的にも大変ですが、その分、演奏会が終った あとに飲むビールの味は格別でしょう。いや、ヴァイオリンやヴィオラの皆さん以外のメンバーに余裕があるわけではありません。指揮者もオーケストラの全員 も、冷静なコントロールを残しながらも、気がつくと体力の限界を使って最後のクライマックスに向けて一団となって疾走することになります。そう、演奏し終 わった私たちだけではなく、聴き終わった(大人の)皆さんもビールがおいしく飲めることを保証します。最後の部分の輝かしいホルンに再び注目。

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