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第19回定期演奏会 曲目解説

ヨハン・シュトラウスⅡ世 /喜歌劇「こうもり」序曲

「こうもり」は、ウィーンの「ワルツ王」ヨハン・シュトラウスⅡ世によって1874年に作曲されたオペレッタの最高傑作です。シュトラウスの作品は「美し く青きドナウ」など、ウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートで毎年お馴染みですが、「こうもり」序曲も大変有名でよく演奏されます。また、大晦日に はウィーン国立歌劇場で必ず「こうもり」が上演されるそうです。オペレッタは笑劇(ファルス)と呼ばれる馬鹿話を台本とし、歌を伴わない台詞も多く、オペ ラよりも格下とされ国立歌劇場では基本的に上演されませんが、「こうもり」は別格なのだそうです。


 物語は全3幕で、第1幕の舞台はアイゼンシュタイン男爵家の居間。男爵は弁護士の不手際で今夜中に刑務所に入ることになっています。彼の妻ロザリンデ は、あなたと離れて暮らすなんて耐えられない、なんて言いながら、実は夫の留守中に昔の恋人アルフレードが来るというので浮き浮きしています。旦那のほう も友人のファルケ博士に誘われて、刑務所に出頭する前に妻に内緒で舞踏会に出かけ、若い女の子と浮気を楽しもうと目論みます。夫の留守に妻がアルフレード と会っていると、刑務所長がやって来て彼を男爵と思い込み、収監してしまいます。

 

 第2幕は美男美女の集まる舞踏会の場面。夜会の主催者オルロフスキー公爵は、ロシア人貴族の傲慢な男ですが、メゾソプラノの女性歌手が演じるために妙に 妖しい雰囲気があります。ファルケ博士が今夜は「こうもりの復讐」という余興があると告げます。彼は以前アイゼンシュタインに恥をかかされて「こうもり博 士」のあだ名をつけられたので軽い仕返しを企んだのです。アイゼンシュタインはフランスの侯爵として紹介され、同じくフランス人と称して舞踏会に来た刑務 所長と変てこなフランス語会話を繰り広げます。男爵家の小間使いアデーレも舞踏会に呼ばれ、女優と偽っています。ロザリンデがハンガリー貴族を名乗り、仮 面をつけて登場すると、アイゼンシュタインは自分の奥さんと気づかず、高価な懐中時計の鈴の音を使って催眠術で誘惑しますが、逆にロザリンデに時計を取ら れてしまいます。華やかな舞踏会の中、時計の鐘が朝を告げ、アイゼンシュタインはしぶしぶ刑務所に出頭します。

 第3幕は刑務所の中。アル中の看守フロッシュと、舞踏会帰りの刑務所長の2人の酔っ払いが、吉本新喜劇ばりの抱腹絶倒のギャグを展開します。アイゼン シュタインは妻が元彼アルフレードを家に入れていたこと知って詰よりますが、逆に自分の浮気の証拠の懐中時計を出されてギャフンとなり、最後にファルケが 全て計画であったことを明かし、「全部シャンパンのせい」と全員で合唱し幕を閉じます。
 実にくだらないストーリーですが、毎年のように戦争や権力闘争を繰り返していたヨーロッパ人の精神構造は、私達日本人の思いの及ばない凄みがあるのかもしれません。登場人物のほぼ全員が2重のキャラクターを演じるのも「こうもり」の所以でしょう。
 シュトラウスの音楽は遊び心があって品を失わず、心が軽く晴れやかになる気がいたします。本日演奏する序曲は活気ある序奏に始まり、劇中の場面のいろい ろな曲が次々に展開します。時計の鐘が鳴り、舞踏会の場面、ワルツ、それからオーボエが「ロザリンデの嘆き」と言われる悲しい旋律を奏でますが、すぐに 「うっふっふ」と楽しいポルカ風に変わります。最後はそれらの旋律が再現し、わくわくする期待感の中で颯爽と終わります。ウィーン流の大人の忘年会を想像 してお楽しみください。

セルゲイ・プロコフィエフ /交響的物語「ピーターと狼」作品67

ソビエト連邦の作曲家プロコフィエフが自国の子どもたちのために作詞・作曲した音楽おとぎ話で、小編成の オーケストラと語り手によって演奏される新古典主義的な作風の作品です。最初の物語は、モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団のイブニング・コンサートで 1936年に紹介されたのですが不評。同年H.ザッツ氏の語りで、子供のミュージカルシアターでの上演で大きく好評を博し、この世界的に有名な作品の第一 歩を印しました。

 

 ピーター(弦楽合奏)、おじいさん(ファゴット)、狩人(ティンパニと大太鼓)、狼(ホルン)、猫(クラリネット)、小鳥(フルート)、アヒル(オーボ エ)といったそれぞれ特定の楽器と主題によって表された主人公たちが、「語り」にいざなわれて物語が展開していく、子供の為の楽しい作品です。ピーターが 小鳥と一緒に狼をやっつける痛快で明快な物語で、世界中で愛されているプロコフィエフの代表作のひとつでもあります。日本初演は1948年4月、東宝交響 楽団、朗読山元安英氏、指揮近衛秀麿氏によって東京で行われました。昨今では世界中で様々な著名人が「語り」を担当し話題になります。ソフィア・ローレン 氏やビル・クリントン氏、ミハイル・ゴルバチョフ氏、日本では明石家さんま氏、中山千夏氏等の名前が並びます。というのが一般的な曲目紹介です。しかし、 この作品にはもう一つの側面が見え隠れします。本来ロシア語題は【Petya i volk】ペーチャと狼。そして、スコア上に記されている冒頭のナレーションは「ある朝早く、ピオネール(共産党組織に任意で入団した子供の総称)のピー ター(ペーチャ)は庭の木戸を開け・・」とあります。そしてこのピーターが悪の象徴でもある狼(=資本主義?)に勇敢に立ち向かい勝利を得るというお話で もあるようですが・・・。

 

 まあ難しいことは抜きにして、実はオーケストラの難曲であるこの作品の演奏上の見所をこっそりお話しておきます(奏者には内緒でお願いしますね)。 

1.小鳥(フルート)は軽やかに飛び回ることができるか。 

2.猫(クラリネット)は高い木の上まで一気に登りきることができるか。 

3.縄の輪(バイオリン)は狼の尻尾を確実に捕らえることができるか。

そして、何といっても軽妙で巧妙な「語り」にいざなわれて、この交響的物語「ピーターと狼」をひとつのエンターテーメント作品に仕上げることができるか・・是非お楽しみ下さい。

アントニン・ドヴォルザーク /交響曲第7番 ニ短調 作品70

 ドヴォルザークの交響曲といえば第9番「新世界」と第8番「イギリス」が有名ですが、この第7番はこれら の2曲と共に3大交響曲と言われ、美しい民族的なメロディーとしっかりした音楽的構成を持ったドヴォルザークの頂点を成す曲です。ドヴォルザークは 1841年生まれのチェコ(ボヘミア)の作曲家です。プラハ国民劇場オーケストラのヴィオラ奏者を経て30歳の頃から作曲に専念し40歳の頃にはスメタナ と並んでチェコを代表する作曲家になっていました。ロンドンでは交響曲第6番が大好評で国際的に評価されていました。この頃、ブラームスとも親交があり、 1883年に彼の交響曲第3番に感銘を受け、新たな交響曲の着手に意欲を燃やしていた頃、ロンドン・フィルハーモニック協会から名誉会員称号と共に新交響 曲作曲の依頼を受けました。これに応えて1885年に完成したのが交響曲第7番です。その年、ロンドンで作曲家自身の指揮で初演され大成功を収めました。

 

 ドヴォルザークは、ロンドンやウィーンなどで国際的に活躍していましたが、あくまでも自らはチェコ(ボヘミア)の作曲家としての自負がありました。たと えば、15世紀チェコ語でキリスト教の教えを説いたヤン・フスを謳った劇的序曲「フス教徒」からの引用(1-4楽章)や、第3楽章のチェコ民族舞曲フリア ントを使っていることから明らかです。ドヴォルザークの郷土愛が感じられます。

 

第1楽章 アレグロ・マエストーソ ニ短調 6/8拍子 ソナタ形式

 コントラバス、ホルンとティンパニーのトレモロ(低いレの音)にのってチェロとヴィオラによって暗いが確固とした意思がある第1主題が奏されます。次第 に盛り上がり、劇的序曲「フス教徒」の主題に基づく恩恵でさらに民族として団結した戦闘的な形で盛り上がります。第2主題は、チェコの単旋歌「聖ヴァーツ ラフ」に由来する形がクラリネット、ファゴット、フルートによりニ長調で奏されます。これも民族のもつやさしさ、郷土の美しさが表現されています。個性的 で美しいメロディーが展開部では調を変え表れます。再現部は短くまとめられコーダでは第1主題と副題が力強く歌われ、静かに終結します。

第2楽章 ポコ・アダージョ ヘ長調 4/4拍子 三部形式

 クラリネットで奏される旋律は、我が里への想いが感じられる心暖かい第1主題です。続いて11小節から主題を発展させたさらに美しい第2主題がフルート とオーボエで奏でられ次第に盛り上がります。すると弦楽器によって神秘的な夜を思わせる減7の跳躍を含む旋律で全体がよどむ感じになります。このあとホル ンによって提示される晴々とした32小節目の第3主題によって力を得て高揚していきます。これらの3つの主題が他の楽器でも示され、展開されこの楽章が形 作られています。

第3楽章 ヴィヴァーチェ ニ短調 6/8拍子 スケルツォ

 チェコ民族舞曲コリアントによる情熱的なスケルツォです。筆者一押しの聴き所です。ヴァイオリンとヴィオラで提示されるフリアントとファゴットとチェロ で示される対旋律の部分は見事です。この組み合わせは様々に変化し、繰返し出てきます。曲が盛り上がってくると3拍子に2拍子のアクセントをつけてたたみ 込む「ヘミオラ」、三連符に続いて四分音符が3つ続く音形(タララタンタンタンタン)の独特のリズムが一層曲を引き締め盛り上げ高揚します。トリオはヘ長 調、フルートとオーボエで伸び伸びとしたメロディーがカノン風に奏でられ、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロに受け継がれクラリネットによって一層晴れ やかに歌われます。再びスケルツォに戻りコーダに向けて盛り上がり一気に終結します。

第4楽章 フィナーレ アレグロ ニ短調 2/2拍子 ソナタ形式

 最終楽章は、荘重であり民族を鼓舞する旋律とリズムに溢れた感情を高揚させる音楽です。冒頭のニ短調の属音<ラ>のオクターブの跳躍ではじまる旋律は不 安が感じられますが、次に示される劇的序曲「フス教徒」主題と関連する第1主題は力強く運命に立ち向かいます。しかし、クラリネットの三連符駆け上がりで 示したモチーフで勢いを一段落させます。そして「フス教徒」主題と共にドヴォルザークがよく使う♩♫♩♫というリズムが加わり全体を鼓舞し、今度はクラリ ネットの駆け上がり後、オーケストラ全体で強奏されます。このパターンが数回繰り返され、その後にイ長調の明るい第2主題がチェロで奏され、フルートに受 け継がれます。そして1stヴァイオリンとオーボエ/フルートを中心に力強く全奏されます。第2主題は対照的に伸び伸びと晴れやかな音楽です。移り行きの 部分の後、展開部後半で再び盛り上がり、再現部を経て、コーダでは熱く勝利を確信したように強く歌われ曲を結びます。

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