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第20回定期演奏会 曲目解説

レナード・バーンスタイン /「キャンディード」序曲

レナード・バーンスタインの指揮者としての華々しい活躍は、改めてここで述べるまでもないが、作曲家としても代表作である『ウエスト・サイド・ストー リー』、『オン・ザ・タウン』といったミュージカル、3曲の交響曲(第1番『エレミア』、第2番『不安の時代』、第3番『カディッシュ』)、管弦楽曲 (『オーケストラのためのディヴェルティメント』)、バレエ音楽(『ファンシー・フリー』)、オペラ(『静かな場所』)、合唱曲(『チチェスター詩篇』) などの多分野に多彩な作品を残している。

 

この『キャンディード』(ラテン語で「純白・純真」の意)は、18世紀に活躍したフランスの哲学者・作家・文学者のヴォルテールの『カンディード或は楽天 主義説』を原作とした二幕の舞台演劇。リリアン・ヘルマンの脚本、作詞は主にリチャード・ウィルバーが担当した。1956年の初演だが興行が思わしくな く、以後改訂が重ねられ1989年のバーンスタイン自身による改訂が完全版とされている。彼自身は、この作品を「靴の中の小石」と形容して気にかけていたようだ。 日本では、2001年に宮本 亜門氏の演出、バーンスタインの最後の愛弟子である佐渡 裕氏の指揮で初上演された。

 

物語は、ドイツの城で楽天主義を教え込まれて成長した青年キャンディードが、領主の娘クネゴンデと結婚の約束をするが周囲の反対にあい、結局城を追放され る。そこからはヨーロッパから南米までの波乱万丈の旅を続け、最後に死んだはずのクネゴンデと再会し、もう一度プロポーズをするというお話。

曲は、ティンパニーと金管楽器の華々しいファンファーレで始まり、変拍子を伴いながら一度もテンポを緩めること無く常動曲のように進行し、最後はさらにス ピードを上げて終わる。途中、キャンディードとクネゴンデの二重唱、「Oh, Happy We」の親しみやすい旋律が繰り返され、後半ではコロラトゥーラ・ソプラノの超絶技巧曲として知られるクネゴンデのアリア、「Glitter and Be Gay」の旋律が奏でられる。5分程度のこの曲に2時間半ほどの舞台のすべてが含まれていると言っても過言ではないだろう。尚、この曲はテレビ朝日系列の「題名のない音楽会」を前述の佐渡氏が担当するようになってから番組のテーマ曲として使用されているので、ご存知の方も多いことであろう。

ジョージ・ガーシュウィン /ラプソディ・イン・ブルー

ラプソディ・イン・ブルーは、1924年、ガーシュインが26歳のときに作曲したアメリカを代表する名曲です。この曲のタイトルの「ブルー」はジャズの音 階である「ブルー・ノート・スケール」を指し、また「ラプソディ(狂詩曲)」は「民族音楽風な、叙事詩的な、自由奔放なファンタジー風の楽曲」という意味 を表すことから、ジャズをアメリカの民族音楽と捉えた楽曲と言われています。

 

この名曲の誕生のきっかけは、何とも突然なものでした。1924年1月4日、ガーシュインはニューヨークトリビューン誌を見てとても驚いたのです。という のも、2月12日に開かれる「新しい音楽の試み」と題されたコンサートに向けて、ガーシュインがジャズコンチェルトを作曲中であると書いてあったからで す。これは、当時アメリカで大人気を博していたジャズバンド指揮者のポール=ホワイトマンが、ガーシュインに断りもせず先にコンサートを発表してしまった のです。ガーシュインはミュージカルの仕事でボストンに向かっていましたが、仕方なくボストンへの列車の中で、列車の騒音から曲の構想とリズムを思いつ き、ニューヨークのアパートに帰ってから2週間でピアノ譜を書き上げます。それをホワイトマンの楽団の専属編曲者であるファーディー=グローフェがオーケ ストラ譜に編曲して、何とかコンサートに間に合わせたのでした。そしてコンサート当日、ガーシュイン自らピアニストとしてこの曲を初演し、大成功を収めるのでした。

 

この曲の冒頭は、クラリネットのとても有名なソロで幕が開きます。気だるく不意をつくようなこの旋律は、「グリッサンド」という難しいテクニックを用いて 効果を上げています。その後トランペットとオーケストラ全体が同じテーマを奏でた後、ピアノが密やかに演奏を始めます。この後ピアノとオーケストラとが綾 を成すようにして音楽が進んでいきます。中間部では、物憂いホルンの旋律が現われ、オーボエとヴァイオリンがそれに呼応し寂しげ なメロディを従えながらクライマックスへと導き、それが急に静まると再びピアノのカデンツァ部に入ります。そして後半には、トロンボーンの旋律を皮切りに 前半・中間部のテーマが次々に顔をだし、終わりに近づくにつれ興奮を高めるような音響、そして活気に溢れたコーダの部分に移り、冒頭のテーマが力強く盛り あがりの頂点を十分に作ってこの曲を閉じます。

ドラマ「のだめカンタービレ」の挿入曲として使われ、日本でも多くの人に知られることになったこの名曲を存分にお楽しみください。

ジョージ・ガーシュウィン /パリのアメリカ人

さて、本日のアメリカプログラム3曲目は引き続きガーシュインです。この曲は、1928年にガーシュインがヨーロッパへ旅行した際に作られました。ちなみ に、私も好きなミュージカル「クレイジー・フォー・ユー」の元になった「ガール・クレイジー」はこの後の1930年に初演されています。このとき既に歌や ラプソディー・イン・ブルーで世界的に評価されていたガーシュインですが、ラプソディー・イン・ブルーは自分の手でオーケストラ用に編曲をすることが出来 ませんでした。その後、独学で勉強し、ピアノ協奏曲の作成を経て、この曲で初めてフルオーケストラ用の管弦楽曲を作成しています。自分で編曲できたことが 相当うれしかったのか、この曲には「ジョージ・ガーシュイン作曲および管弦楽化」と書かれていたそうです。「俺が管弦楽化してやったんだぜ~」というガー シュインの声が聞こえてきそうですね。

 

この曲は交響詩という形式をとっています。交響詩とは文学や物語といったテーマ・ストーリーをオーケストラで描写しようとしたもので、この曲では「パリ見 物に来たアメリカ人」がまさに目に浮かんでくるようです。ただ、ガーシュイン自身はこの曲について、特定の情景を描写したシーンはなく誰もが自分のイメー ジするエピソードを音楽の中に聴き出すことができる、と述べていますので、皆さんも曲を聴きながら自分のパリの物語をイメージしてみてくださいね。とは言 いつつ、何も取っ掛かりがないと難しいと思いますので、この曲の主な3つの部分と、よく言われているイメージを書いておきます。ざっくりにしておきますの で皆さんで補ってください!

 

1.最初の軽快なステップで始まるフランス風の部分 : アメリカ人、パリのシャンゼリゼ通りで浮かれる。

2.ゆったりとしたトランペットで始まるブルース風の部分 : アメリカ人、ふとホームシックにかかる。

3.軽快なトランペットで始まるジャズ風の部分 : アメリカ人、バーから漏れてくるチャールストン(当時アメリカで流行ったダンス)を聞いて元気になり、街へ繰り出す。また、最初の部分では当時のパリの雰 囲気を醸し出すタクシーのクラクションが聞こえてきますよ。タクシーホーンという専用の楽器を使っていますので探してみてください!

レナード・バーンスタイン /シンフォニック・ダンス ~ウェスト・サイド・ストーリーより~

皆さんは、「ウェストサイド・ストーリー」と聞くと、何を思い浮かべますか?
 路地裏で足を高くあげて踊っている姿、「マンボッ!」と叫んで踊っている姿、「アメリカ」や「トゥナイト」の歌等々、何かしら思い浮かぶのではないでしょうか。
 「ウェストサイド・ストーリー」は、アーサー・ローレンツ脚本、バーンスタイン作曲で1957 年に初演されたブロードウェイ・ミュージカルです。そしてこのミュージカルが1961 年に映画化され、世界中で広まりました。
 ストーリーを簡単にご紹介すると、ニューヨークのウェストサイドで対立していた2つの不良グループ「ジェット団」と「シャーク団」、一触即発状態であっ たある夜、ダンスパーティーに行った若い男女が、お互い一目惚れしてしまいます。でもそれは、シャーク団のリーダー、ベルナルドの妹マリアと、ジェット団 の元リーダー、トニーだったのです。そして、この抗争の犠牲となってトニーは死んでしまいます。あれ?どこかで・・・そうなんです。このお話は、シェイク スピアの戯曲「ロミオとジュリエット」を現代化した作品なのです。
 さて、この「シンフォニック・ダンス」は、バーンスタインが1960 年にミュージカル中の主要な曲を集めて 編曲し、オーケストラ用組曲として作曲したものです。最初と最後の曲以外は、物語の順番とは異なっていま すが、それぞれの場面をちょっとずつお話しますので、想像しながら聞いてください。

【プロローグ:Prologue】

フィンガースナップや、スウィング感で、喧騒にまぎれているニューヨークの雰囲 気を醸し出しています。それがだんだんとスピード感を増していき、お互いの縄張り争いから喧嘩を始め、さぁ大変!とそのとき、警官の笛で制止されます。この笛、打楽器紹介にもあるように、その名も「ポリスホイッスル」といいます。
【サムホエア( どこかに):Somewhere】

トニーはマリアに頼まれて、決闘を止めさせようとその場所へ向かったのですが、親友であ り弟のように可愛がってきたリフがベルナルドに殺されてしまい、トニーは思わずベルナルドを殺してしまいます。そして、それをマリアに告白した時に、2 人で幸せになれるどこかに行こう(私たちのための場所がどこかにある・・)と歌う切ない曲です。
【スケルツォ:Scherzo】

ジェット団とシャーク団が仲良く踊っている夢の場面で演奏されます。映画版には入っていませんが、可愛らしく楽しい感じが、ウッドブロックの素朴な音や変拍子とともに表現されている曲です。
【マンボ:Mambo】

ダンスパーティーで、シャーク団とジェット団がお互いを挑発している様子を、沢山の打楽器やトランペットのジャズ的な奏法(フラッター、シェイクなど)を駆使して、パワフルな音楽で表現している曲です。
【チャチャ:Cha-cha】

2人が出会ったダンスパーティーで、自分達の世界に入り、仲良く可愛らしく踊っている場面で演奏される曲です。抗争など全く感じさせない、恋をして浮かれている感じが弦楽器のピチカートで表現されています。
【出会いの場面:Meeting Scene】

トニーとマリアが言葉をかわしている、二人だけの幸せな世界をバイオリンのソロが醸し出しています。
【クール~フーガ:Cool Fugue】

映画では、リフが死んでトニーがベルナルドを殺してしまい、ジェット団が復讐心を燃やして興奮しているのを、ここは冷静に、クールにと言ってガレージの中で踊っている場面です。いかにもジャズらしいスウィング、奏法を使って、クール感を出しています。
【ランブル(決闘):Rumble】

シャーク団とジェット団の決闘の場面で、自分が刺された瞬間、トニーに持っていたナイフを渡すリフ、そしてそのナイフで思わずマリアの兄ベルナルドを刺してしまうトニー。悲劇的な場面を効果的に表現しています。
【フィナーレ:Finale】

シャーク団の一人に撃たれ、「サムホエア」を歌っているマリアの腕の中で静かに息を引き取るトニー。みんなが トニーもリフもベルナルドも殺したのよ!と叫び泣き崩れるマリア。そして、トニーの遺体をジェット団、シャーク団のメンバーが共に運び、みんな去っていく という最後の場面です。トニーやリフ、ベルナルドに対する鎮魂、マリアが力強く生きていくであろう期待、そして喧嘩のない世界へと変わっていく・・・そん な「希望」を感じるのは私だけでしょうか。

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