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第22回定期演奏会 曲目解説

フリードリヒ・クーラウ /歌劇「ルル」序曲 作品65

クーラウ(1786-1832)はドイツに生まれ、主にデンマークで活躍した作曲家・ピアニストです。名前はあまり知られていませんが、ピアノを習っていた方であれば、ソナチネ・アルバムの1曲目を書いた人といえばお判りかも知れません。
(「ドーミーソー、ソソソ ソー↑ドーミードドー↓シ」のフレーズにお聴き覚えのある方も多いと思います。)


生家は裕福とは言えませんでしたが音楽従事者が多く、比較的早くから音楽の手ほどきを受けていたようです。9歳の時に事故で右眼を失い、その苦痛を紛らわ せるために古いクラヴィコード(卓上で弾く平たい箱型の鍵盤楽器)を与えられたことが彼を本格的に音楽の道へ進ませる契機になったといいます。20歳前後 で当時の音楽の要衝ハンブルクへ移ってからは、バッハの流れをくむ音楽理論家・作曲家シュヴェンケに師事して頭角を現し、ピアニストおよび作曲家としての 知名度を高めていきました。しかし1810年、彼が24歳の時にナポレオン軍がハンブルクを占領したため、徴用を恐れたクーラウはデンマークのコペンハー ゲンへと亡命することになります。


コペンハーゲンでは宮廷楽士として、王立劇場向けに新作オペラを書く傍ら、度々国外へ旅行しては新しい音楽をデンマーク音楽界に紹介していました。本人も デンマークには愛着を感じていたようで精力的に仕事をこなし、その手腕と芸術性も大いに認められていましたが、経済的には常に苦しかったようで、給金の増 額を国王に直訴する嘆願書がいくつも残っているそうです。

歌劇「ルル、または魔法の笛」は1823-24年にかけて、王立劇場向けに定期的に提供していた演目の一つとして書かれ、初演当時もかなりの好評を博しま した。名前で連想されるとおりモーツァルトの「魔笛」と同じ題材による作品ですが、モーツァルト版が色々と捻った脚本になっているのに対して、こちらは素 直に原作をなぞっています。
物語は妖精の女王ペリフェリーメの森で、羊飼い一行を襲った虎を王子ルルが撃退するところから始まります。羊飼い達から、女王の娘シディが悪い魔法使いディルフェングにさらわれたことを聞いたルルは、女王から魔法の笛と変身の指輪を授けられシディの救出に向かいます。
ディルフェングの狙いはシディが持つ「薔薇の蕾のお守り」でした。これはシディが愛に目覚めるとき力を得て、その所有者はあらゆる精霊を支配できるという ものです。彼はシディに自分を愛するよう脅し交じりに迫りますが、シディはきっぱり拒絶します。業を煮やしたディルフェングは手下の魔女たちにシディが心 変わりするまで延々責め続けるよう命じ、シディはすっかり弱ってしまいます。
指輪の力で変身し、笛吹きの老人としてディルフェングの城に潜入したルルは、笛の力でシディを元気付けます。そして隙を見て彼女に正体を明かし、必ず救け 出すこと、そのために笛の力でシディにディルフェングを愛するふりをさせ、彼を油断させる計画を告げます。シディは恐れますが、ルルとの愛に目覚め計画を 承諾します。
お守りが力を得るに至ってディルフェングは野望の成就を確信し、盛大な結婚パーティーを開催します。しかし宴の最中にルルが現れて笛の力で全員を眠らせ、 シディとお守りを奪還します。眠りから覚め怒り狂ったディルフェングは嵐を呼び城を崩壊させますが、指輪の最後の力でペリフェリーメの加護をうけ、ルルた ちは無事帰還を果たします。

本日演奏する序曲は上記のストーリーにふさわしく、緊張感あふれる総奏あり、のびやかな歌あり、また劇中からは囚われのシディが脅しには負けない、と結婚 を迫るディルフェングに歌ったメロディも引用されるなど(曲中では最初ホルンのソロで現れます)、様々なモチーフが組み合わされ起伏に富んだ構成になって います。
ドイツロマン派華やかなりし時代、あまり国外に知られることなく埋もれていったクーラウの作品が取り上げられる機会はとにかく少なく、「ルル」が演奏会に 登場した回数は日本どころか世界でもまだ片手で数えられる程度だとか。"隠れた巨匠"の管弦楽の冴えをお楽しみください。

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト /ピアノ協奏曲第24番 ハ短調 K.491

本日の2曲目は、指揮者の冨平先生が弾き振り*1をされるモーツァルトのピアノ協奏曲第24番です。
この作品は、歌劇「フィガロの結婚」の創作の間に1786年4月7日の予約演奏会*2のために作曲されました。
モーツァルトの全27曲のピアノ協奏曲のうち短調なのは、この24番と20番(ニ短調)だけですが、この曲のほうが感情をよりストレートに表現しているように感じます。
また木管楽器の編成がフルート、オーボエ、クラリネットとバスーンまですべて揃っている唯一のピアノ協奏曲であり、その使い方も独立性があり、後のベートーヴェンに影響を与えたと言われる交響楽的な作りとなっています。
この作品の自筆譜には多くの変更、修正が見られ、モーツアルトの作品としては珍しく、何回も推敲を重ねたようです。

■第1楽章: アレグロ 3/4拍子 ソナタ形式
冒頭の弦楽器とバスーンによる減七度や半音を多用した主題は、異様な緊張感を与えます。この主題は、12音のすべてが使われているという異形のスタイルで あり「12音技法の先駆け」と言われるほどの前衛性を持っています。しかも3/4拍子ですから当時のウィーンの聴衆は、さぞかし驚いたことでしょう。続く 独奏ピアノの主題は、独自の哀調を帯びたものとなっています。
尚、この楽章のモーツァルト自身のカデンツァは残されていません。
■第2楽章: ラルゲット 2/2拍子 ロンド形式
第1楽章とは対照的な穏やかで優しく安堵感に満ちた子守唄のような旋律がピアノ独奏で始まります。木管楽器とピアノ独奏の対話が随所で効果的に使われている楽章です。
■第3楽章: アレグレット 3/4拍子 変奏形式
第2楽章でロンド形式を使用してしまったので、協奏曲としては異例の変奏曲(主題と8つの変奏)となっています。主題は、第1楽章ほどの悲壮感はありませ んが、淡々とした無表情な物悲しさを感じます。曲の後半にハ長調で出てくる変奏は、モーツァルトの交響曲第40番の終楽章の第2テーマによく似ています。 最後は、6/8拍子のコーダとなり力強く終わります。

ピアノ協奏曲の弾き振りは当団初となりますが、モーツァルト自身の初演当時の雰囲気をお伝えできれば幸いです。

*1: ピアノの独奏をしながら指揮も兼ねること。
*2: 新作を披露するために予めチケットを売り開催される演奏会で、現在のプロ・オーケストラの定期演奏会のルーツとも言える。

ロベルト・シューマン /交響曲第2番 ハ長調 作品61

シューマンの初期の作品はピアノ曲に集中しており知名度もピアノ曲が圧倒的に高いため、ピアニストが出発点 の作曲家のイメージが強いのではないかと思います。管弦楽の方面ではマーラーが全交響曲の編曲版を出しているなどオーケストレーションの技術が劣っている というネガティブな印象を持たれていますが、学生オーケストラを組織して指揮者として活動するなど早くからオールラウンドの音学家を目指しており、オーケ ストラに関してもかなり詳しかったと思われます。今日ではこの演奏しにくいオーケストレーションもシューマンの個性であると前向きに再評価されるように なって来ています。

シューマンの父親は息子をオペラ「魔弾の射手」で有名なウェーバーに弟子入りさせようと交渉まで始めていたのですが、父親とウェーバー自身があいついで病気で亡くなったため実現することはありませんでした。さて、この交響曲第2番はシューマンが愛妻クララと結婚し、作曲家、指揮者、自ら創刊した「音楽新報」の編集長、評論家、音楽院の教授等で活躍していたラ イプチッヒから病気療養のため、すべてのポストを清算してドレスデンに移った1845年から約1年かけて作曲されました。病気の症状は幻聴と耳鳴りで、過度のストレスと過労から来る統合失調症と推定されています。しかし、転地療養が功を奏したのか、この交響曲の作曲の過程で一旦、病気は治ったため、この交 響曲も苦悩から病気治癒の喜びにあふれた感動的なものに仕上がっています。

 

■第1楽章 Sostenuto assai - Allegro ma non troppo

冒頭のトランペットによる5度跳躍付点付き動機が統一動機として随所に出て来ることにより統一感をもたらしています。

■第2楽章 Scherzo, Allegro vivace

めまぐるしく風が舞うような急速なスケルツォで二つのトリオをはさみます。ウェーバーの下で修業していたらこのようなヴァイオリンに酷な楽章は書かなかったでしょうに!

■第3楽章 Adagio espressivo

おそらくシューマンの緩徐楽章の中でも最も美しいもののひとつで、そのテーマはバッハの音楽の捧げ物のトリオ・ソナタ第1楽章「ラルゴ」から引用と言われており、美しいだけでなく宗教的な厳粛さを伴っています。

■第4楽章 Allegro molto vivace

一転して、病気回復の喜びを爆発させるようなエネルギッシュなもので、一旦収まってから新たに出て来るコラール風主題はベートーヴェンの歌曲集「遥かな恋 人に」の第6曲「受けたまえこの歌を」に基づくもので、このコラール風主題が繰り返される上に、冒頭の5度跳躍動機が出て来て作品全体に統合感がもたらさ れると同時に、宗教的な高みに昇華されて行きます。最後は力強いティンパニーの連打で感動的に締めくくられます。

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