top of page

ウェーバー / 歌劇「魔弾の射手」序曲 作品77

ウェーバーはベートーヴェンたちによって築かれた古典時代からロマン派音楽への橋渡しとも言える役割を果たしたドイツの作曲家です。彼の新しい音楽は後の ベルリオーズやマーラー、ワーグナーといった大作曲家に大きな影響を与えています。特にこの歌劇「魔弾の射手」はドイツ国民歌劇の代表作として大変有名に なりました。ドイツの自然の風物詩とも言える大変親しみやすい音楽であることも大きな特徴でしょう。
 今日お聴きいただく序曲は単独で演奏されることも多く、皆様もきっと聞き覚えのある旋律が出てくることと思います。ホルンによる狩猟やドイツの森を思わ せる旋律、不気味な悪魔の旋律や、アガーテのアリアの旋律などが盛り込まれており、まさにこのオペラ全体の縮図として書かれており、最後は神への賛歌で 堂々と締めくくられています。
さて曲名にある「魔弾」というのが気になるところですが、この「魔弾」とは、悪魔との契約によって作ることのできる「絶対に的を外さない弾丸」のことで す。その代償は三年後に渡すと約束する人間の「魂」ですが、それまでに新たな「魔弾の射手」を悪魔に紹介すればこれは免除されます。「魔弾」は一度の鋳造 で七発のみ手に入り、強力な魔力によって自由自在に曲がり、銃口をどこに向けようとも必ず狙ったものに当るとされています(唯一の例外は悪魔が何らかの意 思をもって「的」を変えた時だけ)。
なおこのオペラ曲中で最も有名なのは「狩人の合唱」でしょう。オペラの後半で出てくるこの合唱は、一度耳にすればすぐ覚えられそうなほど親しみやすく、その陽気な歌声はあたかもドイツ・オペラの誕生を歓喜しているかのようです。

第23回定期演奏会 曲目解説

ブラームス / 交響曲第3番 ヘ長調 作品90

1883年夏、ブラームス50歳のときに、避暑地ヴィースバーデンで完成されました。
初演した指揮者が「ブラームスの英雄交響曲」(注:ベートーヴェンの交響曲3番が「英雄」だからでしょう)と称したそうですが、冒頭や4楽章は確かに勇壮 な雰囲気も持っています。でも始まりこそ勇ましいのですが、曲全体を通して感じるのは、切なさ、寂しさそして時々楽しく、安らかで温かい、そんな人間らし い感情が秘められているように思います。
この曲は全体的にブラームス好みのクラリネットが多用されています。ブラームスは晩年、ソナタや五重奏などクラリネットのための素敵な曲を書いてくれまし た。いずれも哀切とか情熱的なといった表現がよく似合う重厚な曲なのですが、この第3番ではどちらかというと、のどかな、安らかな場面でよく使われている ようです。

第1楽章 アレグロ・コン・ブリオ ヘ長調 6/4 ソナタ形式
冒頭のF-A-Fという音の動きは,"Frei aber froh(自由にしかし楽しく)"というブラームスが若いころから唱えていたモットーをあらわしているそうです。このF-A-Fは、1楽章全体にわたって 何度も出てきます。その後ヴァイオリンの情熱的な旋律が始まり、短調なのか長調なのかわからない不思議な雰囲気がしばらく続きます。その後クラリネットが 優雅にのんびりしたメロディを歌います。

第2楽章 アンダンテ ハ長調 4/4 3部形式
素朴でほっとするようなクラリネット・ファゴットのメロディ、それに呼応して弦楽器が合いの手をうってくれます。中間部は、同じクラリネット・ファゴットの組み合わせなのですが、一転、不安げで孤独です。

第3楽章 ポーコ・アレグレット ハ短調 3/8 3部形式
切なさや情熱的な憧れが感じられるフレーズは映画でも使われるなどブラームスのメロディの中でも最も有名なものの1つです。最初はチェロが哀愁漂う音色で演奏し、その後木管やホルンに受け継がれます。途中、木管楽器によるふわふわした夢見心地のメロディが現れます。

第4楽章 アレグロ ヘ短調-ヘ長調 2/2 ソナタ形式
3楽章と打って変わり暗く厳しい音楽が始まりますが、全体的には非常に情熱的です。最後は第1楽章を回想シーンのように思い出しながら静かに消え入るように終わります。

ところでこの交響曲、全楽章最後がp(ピアノ)かpp(ピアニッシモ)で静かに終わってしまうため、演奏会の締めくくりにするには少し寂しく、演奏時間も 短めです。そのせいかほかの3つの交響曲と比べると演奏会で取り上げられる回数が少ないと感じています。でも、そんな終わり方だからこそ、この曲の美しさ の余韻に浸ることができるのかもしれません。本日の演奏会では前半で演奏しますが、休憩時間はブラームスに浸って幸せな気分になれますように。。。

ベートーヴェン / ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調 作品73「皇帝」

ベートーベンの交響曲5番を英語で検索しても「Fate」は出てこないが、ピアノ協奏曲5番だと「Emperor」が確実に出てくる。譜面に書いてあるか らなのだが、起源について諸説あるようだ。これを聞いたフランス兵が「皇帝だ!」と叫んだという説は、当時のウィーンでナポレオンの人気があったとは考え 難く無理がある。若きピアノ奏者ベートーベンの良きライバルだったヨハン・クラーマーが、後に故国イギリスでこの曲を出版したときに名付けたという話の方 がしっくりくる。

初演についても諸説あり、1810年 (又は1811年) シュナイダー説、1811年ベートーベン本人説、1812年チェルニー説とあるが、実は全て本当だったのではないか。合唱幻想曲で浄書が間に合わずにピア ノを即興で弾き、繰り返しを間違えてオケを止めたベートーベンだ。何回かの「初演」を経て今日の形で演奏されたのが1812年だったのではないか。

この年、チャイコフスキーにネタを提供することになるロシア戦役が勃発、アメリカでは米英戦争勃発、第11代将軍家斉の命を受けた間宮林蔵がロシアの侵略 に備えて第二回蝦夷地測量を開始し、ベートーベンは7番と8番の交響曲を作曲中であった。7番第一楽章とこの曲の第三楽章は、調性も音向も違うのに呼応を している。

第一楽章 (約20分) はいきなりカデンツァ風に始まり、下属調→属調と進行した後の11小節目からは王道中の王道をゆく弦4部で、まことに堂々としたテーマが奏でられる。ピア ノによる第二呈示は主題の確保に至らず直ちに展開を始め、それから本当の展開部に入って再現部からコーダに至る。ベートーベンはエロイカと皇帝で Es−Durを再定義したが、皇帝では協奏曲をも再定義したと言えるであろう。

第二楽章 (約8分) は意表を突いて長3度下がったH-Dur。ピアニスティックな調性である。オーケストラによる第1主題、ピアノによる第2主題、ピアノとオーケストラによ る第1主題の変奏と、ベートーベンの緩徐楽章ここに極まれりの感がある。残したHを強引に半音下げて、休みなしに次楽章へ続く。

第三楽章 (約10分) は譜面に「Rondo」と書いてあることからロンド形式とされるが、立派なソナタ形式である。型どおり第一呈示→第二呈示→第2主題 (属調)→コデッタと続き、長大な展開部を経て再現部→第2主題 (主調)→コーダへと至る。ベートーベンにとって「終楽章をどう構成するか」は、第九に至るまで実験続きだったのかもしれない。そしてその実験はブラーム スにも引き継がれてゆく。

指揮台の横にベートーベンが立っているのが見える演奏というものがある。今日のソリストはベートーベンとは似ても似つかないが、その向こうに小柄な男が椅子から跳ね上がりながらキーボードを叩いている姿が見えるだろうか。203年の時を越えて。

bottom of page