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第27回定期演奏会 曲目解説

エマニュエル・シャブリエ / 狂詩曲「スペイン」
 「スペイン」と聞いて何をイメージしますか?私の場合は、フラメンコ、サッカー、闘牛、ピカソ、ガウディ、太陽、シエスタ、シェリー酒、オリーブ等々...。さらにはラヴェル、ドビュッシー、ビゼー、ファリャなど著名な作曲家達のスペイン題材の名曲もありますね。実は私自身はスペインには行ったことがないのに、イメージ(というか妄想)ばかりが勝手に膨らむ始末。頭でっかちはイケマセンね。やはり一度は行かねばと思う今日この頃です。
 フランス人のシャブリエが作曲した狂詩曲「スペイン」を初めて耳にしたのは中学生の時でしたが、陽気なメロディーと活き活きとしたリズムにワクワクしてしまったのを覚えています。狂詩曲とは、自由な形式で民族的または叙事的な内容を表現し、異なる曲調をメドレーのようにつなげたり、既成のメロディを引用して構成されるものということですが、この曲もシャブリエがスペインに4ヶ月ほど滞在したときに採集した民族舞踊を題材にしたそうです。
 この曲は聴いて面白いだけでなく楽譜を見ても面白く、頭の体操になるかもしれません。まずは冒頭の九つの音。楽譜を見ずに聴くとこんなリズムに感じてしまうのではないでしょうか。(△は八分休符、|は小節の切れ目を表します)
|♪△♪△♪△| ♪△♪△♪△| ♪△♪△♪△|
つまり、3/4拍子のリズムで3小節あり、しかもどの八分音符も拍の頭に位置する感じですね。でも実際の楽譜は以下のように書いてあり、3/8拍子で6小節になってます。
|♪△♪| △♪△| ♪△♪| △♪△| ♪△♪| △♪△|
3/8拍子は1小節を1拍で振るのでこの場合は合計6拍振るのですが、聴き手には3拍子×3小節に聴こえるというわけです。この曲は全体を通し3/8拍子で書かれているのですが、八分音符を二つ単位で捉えるか三つ単位で捉えるかで、拍子の感じ方が変わる旋律がたくさん出てきます(例えば冒頭から1分半くらいのところで4本のファゴットが奏でるメロディー)。この移り気なリズム感が生み出す躍動感と一点の曇りもない曲調こそが、この曲の最大のお楽しみポイントですね。

1841年生まれのシャブリエは官吏だったのですが39歳の時に役所をやめて音楽の道に専念したとのこと。多才で羨ましい限りです。6分ほどの短い曲ですが、21世紀の今もなお日本で演奏されてその名が残っているのですから、クラシック音楽界における究極の一発屋と言っては言い過ぎでしょうか。帰りの道すがら皆様の耳の奥でこの曲が鳴り響いたら我々としては大変嬉しく思います。

ジョルジュ・ビゼー / 「アルルの女」第2組曲
「アルルの女」はフランスの小説家アルフォンス・ドーデ(1840-1897)によって書かれた短編小説であり、本日演奏される「アルルの女」は同名の戯曲のためにフランスの作曲家ジョルジュ・ビゼー(1838-1875)によって作曲されたものです。ビゼーはこの戯曲のために全27曲の劇付随音楽を作曲していますが、その中から数曲選ばれ、第1組曲、第2組曲という形で演奏されているものが、現在演奏されている「アルルの女」の劇付随音楽のほとんどです。
 第1組曲はビゼーによって生前選ばれた4曲で構成されており、本日お聴きいただく第2組曲はビゼーの死後に、ビゼーと親交があったフランスの作曲家エルネスト・ギロー(1837-1892)によって選ばれた4曲で構成されています。

あらすじ
「アルルの女」はフランスの南東部に位置するプロバンス地方を舞台にした物語であり、祭りでにぎわうアルルの闘技場で農家の息子フレデリは美しい女に目を奪われてしまいます。彼は一目見ただけでその女を忘れることができず、ついに彼女と結婚しようと思いつめますが、女が別の男と駆け落ちすることを聞いたフレデリは傷心のあまり、窓から身を投げ、自ら命を絶ってしまうのです。

第1曲「パストラール」
楽器の前奏に始まり、牧歌を思わせるようなやわらかな旋律が奏でられ、続いてプロバンスの太鼓のきざむ舞踏風リズムに乗った主旋律がフルートとクラリネットによって演奏されます。

第2曲「間奏曲」
重々しい前奏の後、アルトサックスによって哀愁をそそる優雅な主旋律が奏でられます。

第3曲「メヌエット」
組曲の中でも有名な曲ですが、実際には戯曲「アルルの女」の中では演奏されていない曲であり、元は歌劇「美しきペルトの娘」で演奏されている曲です。

第4曲「ファランドール」
ファランドールとはフランス南部のプロバンス地方で踊られる民即舞踊であり、曲中に登場する2つのメロディーはプロバンス民謡の「3人の王の行列」と「馬のダンス」が基となっています。最初に「3人の王の行列」のメロディーが短調で登場し、続いて「馬のダンス」のメロディーが長調で登場します。やがて2つの民謡のメロディーが同時に演奏され、クライマックスを迎えます。

モデスト・ムソルグスキー(ラヴェル編) / 組曲「展覧会の絵」
 組曲「展覧会の絵」は、1874年に「ロシア5人組」と呼ばれる音楽家集団の一人として良く知られているロシアの作曲家モデスト・ムソルグスキーによって作曲されたピアノ組曲です。ムソルグスキーが、友人であったヴィクトル・ガルトマン(ハルトマンとも)の遺作展を歩きながら、絵から得た印象を音楽で表現したものです。
 ムソルグスキーの生前には一度も演奏されませんでしたが、1922年にフランスの作曲家ラヴェルが、指揮者クーセヴィツキーの依頼で「展覧会の絵」を管弦楽曲へと編曲しました。「オーケストラの魔術師」とも言われるラヴェルにより色彩豊かで豪華絢爛なオーケストラ曲になったことにより、広く知られる管弦楽曲となりました。 特に、冒頭のトランペットのメロディーや最終曲のキエフの大門はテレビなどでも良く使われますので、どなたも耳にしたことがあると思います。
 ところで、ガルトマンが残した絵の大半は小さなものでその多くは水彩画や鉛筆画だったそうです。ラヴェルが実際のガルトマンの絵をみたとしたら、このように色彩感の豊かな曲にはならなかったかもしれませんね。

プロムナード
 「プロムナード」は誰もが知っている有名なテーマです。展覧会を巡り始める歩みと期待を表現しているかのようです。このテーマはそれぞれの曲の間に形を変えながら繰り返し挿入されます。

1. こびと
 「グノーム」とはロシアの伝説に登場する「小人、土の精」ですが、この小人の形をしたクリスマス・ツリーの飾りが書かれていたようです。
グロテスクな小人が連想される曲です。

プロムナード
 冒頭の力強さとはうって変わって優しい表情の曲になっています。

2. 古城
 「中世の城。その前では吟遊詩人が唄っている」絵であったと言われています。ラヴェルはファゴットとアルト・サックスを使って古びた城の雰囲気を出しています。

プロムナード
 今度は元気たっぷりなプロムナードからそのまま次の曲につながります。

3. テュイルリー、遊びの後の子供たちの口げんか パリの中心部ルーヴル宮の前にあるテュイルリー公園で遊ぶ子供たちの口げんかの様子です。曲は忙しく活発に動き回る部分と優しく甘美な中間部からなります。

4. ビドロ
 ビドロは牛車のことですが、虐げられた人々という意味もあるようで、圧政に苦しむポーランドの人々を牛車に喩えたという説もあります。

プロムナード
 優しい表情で始まり次の曲につながっていきます。

5. 殻をつけた雛鳥の踊り
 装飾音やトリルがふんだんに使われ、ひなどりの鳴き声や小刻みな動きを表現しています。

6. サムエル・ゴールデンベルクとシュムイレ
 二人のユダヤ人を描いた絵で、まず、金持ちで傲慢なサムエル・ゴールデンベルクが話し始め、次いで貧しく卑屈なシュムイレが甲高い声で嘆き節を繰り返します。

7. リモージュ 市場
 フランス中部の都市リモージュの情景。小刻みな16分音符で絶え間ないおしゃべりの様子が描かれています。切れ目なく次の曲につながります。

8. カタコンブ(ローマ時代の墓)
 パリにある地下墓地、夥しい数の頭蓋骨が描かれています。ほとんど管楽器の和音だけで作れられている曲です。後半高音域の弦のトレモロからは「死せる言葉による死者への話しかけ 」と記されていて、プロムナードの主題が物悲しく奏でられます。

9. 鶏の足のうえの小屋(バーバ・ヤガー)
 ロシアの伝説に登場する魔女バーバ・ヤガーは鶏の足の上に立つ小屋に住んでいます。激しく叩きつけるような冒頭から激しく駆け巡る魔女を描いています。

10. キエフの大門
 キエフにはかつて壮麗な門がありましたが破壊されたままになっていました。ガルトマンはキエフ市が募集した門の再建コンテストに応募し入賞します。結局門は再建されませんでしたが、ムソルグスキーはそのガルトマン設計の門を、この友人の業績を讃えた曲の最終曲として取り上げました。
音楽はコラールが繰り返され、鐘と聖歌隊の歌が響く絢爛たる情景が描かれています。

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