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第28回定期演奏会 曲目解説

リムスキー=コルサコフ / スペイン奇想曲

  さてご来場の皆様、「スペイン」と聞いてこの国にどんなイメージを持つだろうか。情熱の国、闘牛、フラメンコ、サッカー、パエリア、バル、ワイン、生ハムの大きなかたまり、お昼寝のシエスタ、温暖で乾燥した地中海性気候、陽気で気さくな人々...

 本日お聴きいただく『スペイン奇想曲』は、この底抜けに明るいスペインそのもの。いわゆる“ロシア五人組”の一人である作曲家リムスキー=コルサコフが、音楽で「スペイン」を描くとこうなるのである。

 曲は5つの部分が切れ目なく演奏される。エキゾチックな旋律、ヴァイオリン・チェロ・フルート・オーボエ・コールアングレ・クラリネット・ホルン・ハープの華麗なソロ、もちろん金管楽器や打楽器を含めた華やかなオーケストレーション。情熱の国を存分にお楽しみ下さい。

1)アルボラーダ【Alborada】

 アストゥリア地方の舞曲で直訳すると『朝(夜明け)』。

 これはもう底抜けに明るいスペイン。クラリネットが大忙しで大活躍。

2)変奏曲【Variazioni】

 アストゥリア地方の民謡『夕べの踊り(Danza prima)』が主題。

 ホルンによる優雅な主題で始まり、様々な楽器がこの旋律を変奏していく。

3)アルボラーダ【Alborada】

 1曲目と同じ主題を半音高い変ロ長調で吹奏楽的に再現。ソロ・ヴァイオリンに注目。

4)ジプシーの情景と歌【Scena e canto gitano】

 アンダルシア地方の『ジプシーの歌(Canto gitano)』が主題。

 金管のファンファーレで始まり、各楽器によるソロそして躍動的な旋律が魅力。

 ヴァイオリン → フルート → クラリネット → ハープのソロが聴きどころ。

5)アストゥリアのファンダンゴ【Fandango Asturiano】

 『ファンダンゴ』もアストゥリア地方の舞曲。躍動的な3拍子、これぞ情熱のスペイン。

 カスタネットに乗ってどんどん盛り上がり、最後は『アルボラーダ』を超高速まで加速!

ムソルグスキー(リムスキー=コルサコフ編) / 交響詩「はげ山の一夜」

「はげ山の一夜」は、夏至のころに行われる聖ヨハネ祭の前夜に悪魔、魔物、魔女、精霊などが集まって大騒ぎをするというヨーロッパの伝説を基にして、ロシアの作曲家ムソルグスキーが作った10分ほどの交響詩である。映画やテレビドラマの怖かったり不気味な場面などで、音楽によって不安な気分を盛り上げるのは定番になっているが、それを最初に音楽で表現したのがベルリオーズで、次にそれをもっと狂暴な形で音楽にしたのがムソルグスキーである。

 ムソルグスキーはこの曲を28歳の時に作曲したが、若いころに作曲をきちんと学ぶことのなかったムソルグスキーは、直感的に作曲をして、管弦楽曲に仕上げたということである。そのため当時師事していたロシア5人組のリーダー的な作曲家バラキレフには構成や楽器の使い方について酷評され、演奏も拒否されたと伝えられている。

 その後ムソルグスキーはオペラの中で流用したりしたが、結局42歳の若さで亡くなるまで、この曲が演奏されることはなかった。ムソルグスキーの死の5年後、ロシア5人組の仲間であったリムスキー=コルサコフが、ムソルグスキーの音楽が忘れ去られるのを惜しみ、構成と楽器の使い方に全面的に手を入れたものが大成功を収めた。

 このリムスキー=コルサコフ版が、広く演奏されるようになっており、本日の演奏もこの版によるものである。ただ最近ムソルグスキーのオリジナル版の演奏も復活しており、それはそれで魅力的である。曲は、不吉な夜の鳥のさえずりやヒューヒューと鳴る風の音を思わせる不気味な弦楽器や木管楽器の響に乗って、トロンボーンなどが悪魔の出現を感じさせるような荒々しいテーマを吹き鳴らして始まる。同じ形がもう一度繰り返された後で、こんどはクラリネットとファゴットがいたずら好きの精霊を思わせるメロディを吹き始め、いよいよ宴もたけなわ。次々と現れる魔物で音楽はどんどん盛り上がる。と、教会の鐘が静かに鳴る。夜明けだ。あれほどいた魔物たちはあっというまに消え失せ、夜明けを告げるクラリネットとフルートで曲は静かに終わる。


ボロディン / 歌劇「イーゴリ公」から「だったん人の踊りと合唱」

 「だったん人の踊りと合唱」は、ロシアの作曲家アレクサンドル・ボロディンが作曲した歌劇「イーゴリ公」の劇中歌である。美しく魅力的な旋律とエキゾティックな曲想を持つこの曲は、原曲のオペラのみならず、本日のようなオーケストラコンサートやバレエ公演でも単独で採り上げられるポピュラーな曲である。

 

 中世ロシアの叙事詩「イーゴリ軍記」を題材にした全4幕のオペラ「イーゴリ公」は、12世紀のキエフ大公国のイーゴリ公による遊牧民族ポロヴェツ人(だったん人)に対する遠征を描いた作品だが、「だったん人の踊りと合唱」はこのオペラの第2幕に演奏され、ポロヴェツ人の捕虜となったイーゴリ公とその息子ヴラジーミルに対し、敵将コンチャークが宴席を設けて彼らをもてなす、その宴の華やかな歌と踊りのシーンを描いている。 

 

 作曲家ボロディンは、実はアルデヒドに関する研究で有名な化学者であり、軍医およびペテルブルク医科大学の化学教授として生涯を送った。そのため素晴らしい音楽的な才能を持ちながらもその作品の数が少なく、自ら「日曜日の作曲家」と称していた。楽曲の創作スピードがとてもゆっくりしており、18年の歳月をかけて作曲してきた歌劇「イーゴリ公」については、結局作品の完成を見ることなく他界してしまう。ボロディンの死後、本日のプログラムの作曲家である盟友リムスキー=コルサコフを初めとした数名でオーケストレーションや補作を行い、3年後の1890年にようやく初演されている。


 曲は5つの部分で構成されている。序奏に続く第1部「娘達の踊り」はオーボエによる美しい旋律、第2部「男達の踊り」はクラリネットが速い動きを見せる。第3部「全員の踊り」は荒々しく勇壮な舞曲、第4部「少年達・男達の踊り」はさらに野生的で激しいリズムが加わり、続いて第1部の旋律が現れる。第5部では、第2部の旋律も加えられ、さらに熱狂的な盛り上がりの中、華々しく終幕を迎える。
 

リムスキー=コルサコフ / 交響組曲「シェエラザード」

リムスキー=コルサコフ(1844-1908)は19世紀の後半にロシアで活躍した作曲家であり、非常に勉強熱心な作曲家だった。そのため、バッハやモーツァルトなどの膨大な作品を研究し、その成果を「管弦楽法原理」としてまとめるなど、ロシア音楽の発展のみでなく、後世の音楽家に大きな影響を与えた音楽家の一人である。

今回、曲名にもなっているシェエラザードとは「アラジンと魔法のランプ」などで有名な「アラビアンナイト(千夜一夜物語)」に登場する女性の名前だが、彼女はある物語に登場する人物ではなく、千一夜(千夜一夜)にわたって、妻の不貞を知ったことから暴君となってしまった王様に物語を聞かせる語り部のことだ。

シェエラザードは4つの曲で成り立っているが、アラビアンナイトのどの物語を表しているかははっきりしておらず、リムスキー=コルサコフには「聞き手に標題がほのめかすイメージを好きなように探し出してほしい」という意図があったと言われている。

本日はそんなリムスキー=コルサコフの総決算とも言える作品「シェエラザード」をお楽しみください。

 

第1曲:「海とシンドバッドの船」

曲の冒頭から暴君的な荒々しい主題が提示され、その後、シェエラザードの主題であるバイオリンの独奏がハープの伴奏に乗って演奏される。

シェエラザードの主題が終わると、標題となっているシンドバッドの物語が語られる。

 

第2曲:「カレンダー王子の物語」

2曲目は冒頭からバイオリンの独奏によってシェエラザードの主題が演奏され、その後、メロディーは木管楽器、弦楽器などによって、徐々に人数が増えて奏でられる。

中間部ではAllegro moltoとなり、金管楽器によって新たな荒々しいメロディが力強く奏でられる。

 

第3曲:「若い王子と王女」

弦楽器による美しい官能的な旋律が奏でられ、物語は始まる。その後、メロディにさまざまな楽器が加えられ、中間部では非常に明るく、快活な情景が浮かび上がるような曲となっていく。そして後半では再度、シエラザードの主題がバイオリンの独奏によって奏でられる。

 

第4曲:「バグダッドの祭り。海。船は青銅の騎士のある岩で難破。終曲」

冒頭は非常に緊迫した雰囲気で曲が始まり、シェエラザードの主題が独奏で奏でられるが、王の怒りが表されたような演奏は続く。

その後、バグダッドの祭りを表すような演奏がなされ、盛り上がりが最高潮に達したところで、トロンボーンによって海の場面に転換される。

そして最後には船は難破してしまうが、穏やかな海を思わせるメロディーが奏でられ、再度シェエラザードの主題と共に物語の終わりを迎える。

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