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第31回定期演奏会 曲目解説

R.シュトラウス  13管楽器のためのセレナード 変ホ長調 作品7

セレナーデはしばしば「夜、恋人の窓辺の下で想いを寄せて演奏される曲」であるとされるが、普段我々が耳にするセレナーデは管楽合奏やフルオーケストラが多い。恋人宅には十分に広い庭が必要となり、家人に怪しまれずにセッティングから演奏までこぎ着けたとしても、恋人側からは、想いを寄せているのがオーボエトップのお兄さんなのかビオラ3列目外側のおじさんなのか判別しにくい。やはり「夜、貴族の食堂の外でBGMとして演奏される曲」という定義の方が適切であろう。食事中にネタ切れになることを防止するため多楽章であり、交響曲風であることは少ない。

 モーツァルトの 13管楽器のためのセレナーデ は7楽章構成、指定の繰り返しをすべて行った場合の演奏時間は約1時間。まさにグラン・パルティータの別名にふさわしい長大な曲である。その100年後に初演されたリヒャルト・シュトラウスの13管楽器のためのセレナーデは、 グラン・パルティータの第5楽章「ロマンツェ」と同じEs-durの楽章が一つだけ。演奏時間10分の小さなセレナーデである。

 木管に支えられたオーボエのシンプルな主題で始まる。型通りに進行して一段落すると、ホルン信号が場面を変え、クラリネットが演奏する流れるような第二主題に移る。頂点でリヒャルト・シュトラウスのホルンが吼えると短いコデッタ。オーボエのソロを挟んだ展開部は、第二主題にコデッタのモチーフが噛みつきながら2度目の頂点へ向かって進む。最初の主題を今度はホルンが演奏すると再現部。クラリネットが第二主題を主調であくまでも美しく歌うと最期のクライマックスを迎え、一挙に収まり、クラリネットからファゴットへと続く慟哭を経て、静かに静かに、主和音で終わる。

作曲家18歳のときの作品。初演1881年。西郷隆盛が西南戦争に敗れた4年後のことである。

ベートーヴェン  交響曲第4番 変ロ長調 作品60

ベートーヴェンは、1800年に交響曲第1番を完成させから2年ごとに1曲のペースで交響曲を作曲しました。この第4番は第3番「英雄」のちょうど2年後の1806年10月に完成したと見られています。この曲の快活さや陽気さは5月にテレーゼ・フォン・ブルンスヴィック嬢と婚約した幸福な気分が反映されているとも言われております。現在ではそれほど驚くことはありませんが、最初の変ロ音からいきなり変ロ短調へ飛び一向に変ロ長調に向かわずアレグロ・ヴィヴァーチェに入ってもなお4小節間は変ロ長調に解決されない斬新な手法は当時の聴衆をかなり当惑させた模様で、これを含めて所々に見え隠れする当時としてはかなり前衛的な所に批判もあったのですが、この曲の魅力が勝っていたためベートーヴェンの天才故ということで好意的に受け止められていた様です。この作品は下書きもあまり残されておらず、比較的短期間に一気に書かれ、ベートーヴェンの明確な意図が伝わって居ないので演奏解釈もさまざまですが、近年ではのどかで牧歌的な解釈よりは快速かつ力強い演奏が多くなっています。

 

この作品は変ロ長調で4楽章からなり、第1楽章はアダージョの序奏付で主部は極めて動的かつ快活なアレグロ・ヴィヴァーチェ、第2楽章は変ホ長調のアダージョで小川がせせらぐ森の中を散策する様な優しさに時折32分音符の目まぐるしい動きが垣間見られます。第3楽章はベートーヴェンが得意とするシンコペーションを多用した躍動的なスケルツォですが、楽譜上はアレグロ・モルト・エ・ヴィヴァーチェとのみ書かれています。1stヴァイオリンがそよ風の様にささやいて導入されるさわやかな4楽章はアレグロ・マ・ノン・トロッポですが、風光明媚な風景の中を高速で疾走している様な爽快な曲になっています。最後はフェルマータでファゴットと1stヴァイオリンが謎めいた問いかけを行った後、畳み込むように曲が閉じられ、鮮やかなエンディングとなっています。

R.シュトラウス 歌劇「ばらの騎士」​ 作品59よりハイライト

本日のIBM版「ばらの騎士」は、3時間に及ぶオペラから3つの名場面を管弦楽と歌でお届けする、指揮の村上寿昭氏の構成による30分の特別ハイライト版です。

 

登場人物

 

オクタヴィアン(伯爵、ばらの騎士)

侯爵夫人と愛人関係にありましたが、貧乏貴族オックス男爵と町人ファーニナルの娘ゾフィーの婚約を正式に告げる使者として、銀のばらを持ってファーニナルの家を訪ねた際、こともあろうにゾフィーとお互いにひとめぼれしてしまい、オックス男爵と刃傷沙汰になってしまいます。オクタヴィアンは少年から青年に変わっていく年代で、リヒャルト・シュトラウスはメゾ・ソプラノすなわち女性が歌うように指定をしています。ズボン役といいます。宝塚の男役のようなものとお考え下さい。

 

ゾフィー

町人ファーニナルの10代半ばの娘。オクタヴィアンにひとめぼれした後、婚約者オックス男爵と初めて対面し、その年齢と俗物ぶりに嫌気がさし、オクタヴィアンに助けを求めます。その後、オクタヴィアンと侯爵夫人の関係を知り、身を引こうとしますが、逆に侯爵夫人に励まされ、オクタヴィアンと共に進もうと決意します。

 

侯爵夫人(マリー・テレーズ、マルシャリン、元帥夫人とも)

青年貴族オクタヴィアンと愛人関係にありましたが、自分はもはや若くないと思い始め、オクタヴィアンが、若い娘ゾフィーと愛し合っているのを理解し、自分は身を引き、二人を結び付けようとします、

 

テノール歌手

侯爵夫人にイタリアのアリアを聴いてもらおうと訪問する歌手です。

 

すじがき (カッコ内の番号は、本日演奏される順番です。)

 

舞台は18世紀、マリアテレジア女帝に統治されているウィーン。侯爵夫人マリー・テレーズは31歳。愛人関係にある青年貴族オクタヴィアン17歳と二人で過ごしている朝という設定で第一幕が始まります(①オケのみ)。 侯爵夫人のサロンには様々な訪問者がありますが、その中には夫人に聴かせようとイタリア風のアリアを歌う歌手(⑥テノール歌手)なども登場します。そこに侯爵夫人のいとこで俗物中年の貧乏貴族オックス男爵が登場します。オクタヴィアンは侯爵夫人の小間使いマリアンデルに変装します。オックスは金持ちの町人ファーニナルの娘、ゾフィーとの結婚の報告のため現れたのですが、小間使いマリアンデルにもちょっかいを出します。オックスは、銀のばらを持ってファーニナル家を訪問する婚約申し込みの使者の紹介を侯爵夫人に依頼し、侯爵夫人は、オクタヴィアンを銀のばらの使者として紹介することを思いつきます。侯爵夫人は、自分も昔はちやほやされたこともあったのにと、時の流れの残酷さをかみしめながら物想いにふけるのでした。

 

第二幕は、ばらの騎士オクタヴィアンが登場します(②オケのみ)。 銀のばらを持ち、オックス男爵の使者としてファーニナル家に到着したオクタヴィアンは、ゾフィーと会うなり、使命を忘れ、恋に落ちます。ゾフィーもオクタヴィアンにひとめ惚れをしてしまいます(③オクタヴィアンとゾフィー)。 オックス男爵が到着。ゾフィーは、初めて会ったオックスが年上であまりにも下品であることに幻滅し、オクタヴィアンに婚約解消の助けを求め、彼も助ける約束をします。そして、オックス男爵の手下がファーニナル家で女性を追い回す場面となり大混乱になります(④オケのみ)。 オクタヴィアンはオックスに、ゾフィーは結婚しないと告げますが、オックスが取り合わないため、決闘となります。傷を負ったオックスは父親のファーニナルに婚約の確認をし、上機嫌に戻ります。 そして「私がいなけりゃいつもさびしい、私がいればいつも楽しい」とワルツを歌いだします。ヴァイオリンソロにご注目ください(⑤オケのみのワルツ オックスは登場しません)。

 

第三幕では、オックス男爵を懲らしめるたくらみが始まります。居酒屋で、オックスがマリアンデルに化けたオクタヴィアンを口説いているところへ、オックスの隠し子と称する子供を引き連れた女とファーニナル、果ては警察までも登場。密会がばれてしまい、困り果てているオックスの前に侯爵夫人が現れます。オクタヴィアンが正体を明かし、侯爵夫人が「すべて終わりました。去りなさい。」とオックスに告げます。晴れてオクタヴィアンとゾフィーは結ばれることとなります。全員の退場の後、侯爵夫人、オクタヴィアンとゾフィーは、オクタヴィアンの「マリーテレーズ、、、」という呼びかけにより始まる三重唱でそれぞれの気持ちを歌い上げます(⑦侯爵夫人、オクタヴィアン、ゾフィー)。侯爵夫人は身を引く決意と、なお揺れ動く気持ちを歌います。オクタヴィアンは、侯爵夫人との別れに当惑しつつもゾフィーと結ばれる喜びを歌います。ゾフィーは、突然願いが叶うことになった当惑と喜びを歌います。そしてオクタヴィアンとゾフィーの愛の語らいの美しい素朴なデュエットとなります(⑧オクタヴィアン、ゾフィー)。二人の退場後、最後に「これでちょっとしたエピソードは終わり」とでもいうように洒落た音楽で終わります(⑨エピローグ)。 

 

筆者の私見ですが、最後の素朴な音楽は二人には未来が広がっているけれども、まだまだ未熟であるということをシュトラウスが表現をしたように聞こえます。またフルートの三重奏とチェレスタで繰り返し聞こえるちょっとかわいらしい合いの手は、同時に容赦のない時の刻みを表しているようにも思います。時の流れは容赦がないので、若さの絶頂にいるゾフィーは、すぐに侯爵夫人の年齢になるし、純粋に見えるオクタヴィアンも年齢を重ねるうちにオックス男爵のような俗物になるのかもしれません。恋のうつろいの描写だけではなく、人間が抵抗できない冷酷な時の流れというものが背景として描かれているからこそ、私たちはこのオペラに心打たれるのでしょう。

<アンコール>

R. シュトラウス作曲
Das Rosenband (ばらのリボン):十合翔子
Cäcilie (ツェツィーリエ):小原啓楼
Morgen! (明日):天羽明惠
Zueignung (献呈):大倉由紀枝

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