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第32回定期演奏会 曲目解説

冬木透  交響詩「ウルトラセブン」より 第1楽章 "ウルトラセブン登場!"

 日曜日の午後7時、小学生の僕はテレビの前にかじりつきます。極彩色がどろどろと画面をうねり始め、番組タイトルに続きあのホルンの咆哮が。そう、1967年の秋に放送開始された特撮テレビ番組『ウルトラセブン』。これとスポーツ系アニメ番組『巨人の星』を見逃すと、月曜日に小学校で話題についていけませんでした。50代後半以降の皆様には、リアルタイムで体験された思い出ではないでしょうか。

 さて、2002年の発足から17年目を迎えた当団が、定期演奏会で邦人作品を取り上げるのは初めての試みです。その記念すべき最初の曲として、この『ウルトラセブン』のテーマを演奏します。

 1967年と言えば、東京オリンピックの3年後、大阪万博の3年前と当時の日本は高度経済成長の真っ只中。この頃の街角には、グループサウンズのザ・タイガースやザ・スパイダース、双子女性デュオのザ・ピーナッツの歌が流れ、ザ・フォーク・クルセダーズ『帰って来たヨッパライ』、三波春夫『世界の国からこんにちは』も大ヒット。

これまた大人気となった『巨人の星』は『ウルトラセブン』の半年後より放映開始です。

 『ウルトラセブン』は『ウルトラQ』『ウルトラマン』に続いて円谷プロとTBSが制作し、1967年10月から1年間放映されました(全49話)。「怪獣との戦い」が中心だったこれまでのウルトラシリーズ作品とは違い、『ウルトラセブン』では「宇宙人の侵略から地球を守る」がテーマでした。

 核による軍拡戦争への批判や、人間そっくりの無表情なロボットが人間を支配する正確性至上主義の怖さなど、ドラマ性のある展開は、当時小学校に上がりたてだった私の胸にも突き刺さる鮮烈なストーリーでありました。

 親子2世代以上に渡って長く続き、数多あるウルトラシリーズの中でもひときわ光る、私も大好きな作品です。

 もちろん、番組中に流れる冬木透氏による楽曲の数々は、いずれも耳馴染みの良いものばかり。これらの曲を聴くと、大人になった今でも思わずワクワクしたり、地球を守りたくなったり...

 本日は、冬木透氏自身の作曲による『交響詩「ウルトラセブン」(全5楽章)』より、最も有名な名曲中の名曲、番組オープニング・テーマの第1楽章「ウルトラセブン登場!」をお届けします。 ホルンの咆哮を存分にお楽しみ下さい。

伊福部昭   SF交響ファンタジー第1番

 日本を代表する作曲家の一人伊福部昭(1914-2006)は多くの映画音楽を手掛けており、特に30を超える特撮映画はその重要なジャンルとなっています。「SF交響ファンタジー」は1983年に作曲者自身が自作の映画音楽をもとに3曲の管弦楽曲に編集したもので、第1番では6本の映画からの楽曲が切れ目なく演奏されます。(括弧内の数字は映画公開年)

冒頭より低音群で示されるのが重厚な「ゴジラのモチーフ」、続いて木管・弦楽器で奏でられる「間奏」のテンポが上がって、「ドシラ ドシラ ドシラソラシドシラ」で有名な「ゴジラ」('54)タイトル・テ-マとなります。繰り返しの後、同じテンポで打楽器が増強され「キングコング対ゴジラ」('62)タイトル・テ-マとなります。映画は日米を代表する怪獣の対決を描いた娯楽大作で、南方の島でコングを称える島民の舞踊のテーマが木管楽器で演奏されます。盛り上がった後、曲想は一転、「宇宙大戦争」('59)の夜曲となります。主役の恋人2人が月に向かう前夜に語りあう場面でのメロディを素材にしたもので弦楽器群が演奏する美しい緩徐楽章です。曲が穏やかに閉じると低音群により突如「フランケンシュタイン対地底怪獣」('65)からの「バラゴンの恐怖」が鳴り響きます。不死の巨人フランケンシュタインと戦う地底怪獣バラゴンの登場シーンの曲です。続いて冒頭でも聞かれた「ゴジラのモチーフ」が響き、トランペットの高音で「ラドンのモチーフ」が続きます。これらは「三大怪獣 地球最大の決戦」('64)からの怪獣たちの主題で、映画単発での主役級のゴジラ、ラドン、モスラが協力して新怪獣キングギドラと戦う作品での怪獣たちの顔見せの場面で聞かれます。次の管楽器のファンファーレとスネアドラムがリードする曲は「宇宙大戦争」タイトル・テ-マ。月面基地から地球侵略を目論む異星人との攻防を描いており、円盤飛行を模したような木管楽器の効果音が聞こえます。続く曲は、ゴジラ率いる地球怪獣が勢揃いして宇宙怪獣キングギドラと戦う「怪獣総進撃」('68)のマーチです。伊福部らしい切れのあるリズム感の行進曲で冒頭の間奏を挟み「宇宙大戦争」戦争シ-ンとなります。空中戦に向かうパイロットが出撃する際の曲で、徐々にテンポがあがっていきオーケストラ全奏の高揚感の中で曲は終結します。

(なお「宇宙大戦争」戦争シーンでは、「シン・ゴジラ」(‘16)でN700系新幹線がゴジラに突進する際に用いられた有名な楽曲もありますが、こちらは次の機会に・・・)

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宮川泰    組曲「宇宙戦艦ヤマト」

  宇宙戦艦ヤマトは1970年代に大ヒットした連続テレビアニメです。それまでのアニメは子供向けが主流でしたが、大人までに対象を広げ、正確さに拘りがあることで定評のあった漫画家の松本零士を起用したリアルなアニメと、毎週番組の終わりに「地球滅亡まで後××日」と入りストーリーと視聴者が時間を共有するような手法も斬新で評判を呼び、最終的に劇場公開版が制作されるほどの大ヒットとなりました。

  ストーリーは、近未来の地球が突然謎のガミラス星人から遊星爆弾による核攻撃を受け、辛うじて地下に生き延びた人類も放射能によって滅亡まで1年というところまで追い詰められた時に、マゼラン星雲のイスカンダル星から地球環境を復元できる放射能除去装置を譲る用意があることと、人類が取りに来るため星間航行が可能となる波動エンジンの設計図が入ったメッセージが届き、干上がってしまった海底から発見された戦艦大和を宇宙船に改造し、微かな希望を託してイスカンダルに出発しますが、途中執拗なガミラス星人の攻撃や諸々の困難に遭遇する冒険SFです。

  組曲「宇宙戦艦ヤマト」はアニメ主題歌の作曲者である宮川泰が劇場公開版のヒットを受け、劇中のBGMを壮大な交響組曲に再編曲・再編成したものです。今日演奏する版は4楽章からなり、それぞれ「序曲」「宇宙戦艦ヤマト」「出撃」「大いなる愛」のタイトルが付けられています。序曲はイスカンダル星女王スターシャを彷彿させる女声のスキャットで始まり希望であるイスカンダル星への憧憬を表しています。第二曲はアニメ主題歌がモチーフの勇ましい曲、第三曲は地下で密かに建造されたヤマトが地中から出現し、これを阻止しようとするガミラス軍との激しい戦闘を表現しています。終曲はさしずめ、主人公の古代進とヒロインの森雪との愛のテーマと言ってよいでしょう。

さて青く美しい地球を取り戻しハッピーエンドとなりますか?演奏をお楽しみください!

レスピーギ  交響詩「ローマの噴水」

 イタリア・ボローニャ出身の作曲家オットリーノ・レスピーギ(1879-1936)によるローマ3部作の第1作です。1913年にサンタ・チェチーリア音楽院作曲科の教授に就任したためにローマに移住し、1916年この交響詩を作曲しました。1917年の初演は失敗に終わりましたが、翌年親交のあったトスカニーニによる再演は大成功を収めます。

ローマには2000以上の噴水があると言われており、その起源は古代ローマ時代、水道の終着点に記念碑として造られたものです。現在のローマにある噴水は、ローマ帝国崩壊後、近世に古代の水道を復興するに伴い、新しく作られたものが多く、市民の生活に欠かせない水を供給すると同時に、当時の権力者の権威の象徴でもありました。

この曲では、その数多ある噴水のうちの4つを選び、夜明けから黄昏迄の時間帯と情景を当てはめています。4部構成ですが、これらは連続して演奏されます。

 第1曲 夜明けのジュリアの谷の噴水

まだ薄暗く夜明けの霧の中に佇む噴水、そこを家畜の群れがのどかに通り過ぎていきます。幻想的な空気感をヴァイオリンが表現し、オーボエが牧歌的な旋律を奏でます。

ローマの松にも出てくるボルゲーゼ荘の中にある盆地のような場所といわれていますが、場所は特定されていません。

 第2曲 朝のトリトンの噴水

突然ホルンが鳴り響き、第2曲が始まります。朝の日差しの中で踊るポセイドンの息子トリトンと妖精たちが吹き鳴らすほら貝がホルンで表されています。トリトンの噴水はバロックの巨匠ベルニーニが作ったローマの噴水を代表する傑作で、4頭のイルカに支えられた貝殻の上に乗ったトリトンが空に向かってほら貝を吹いています。

 第3曲 昼のトレヴィの噴水

ローマで最も有名なトレヴィの噴水、中央に立つポセイドンの勝利の凱旋を描いています。木管から金管に主題が移り、ファンファーレが鳴り響きます。輝く光の中でポセイドンの馬車が通り過ぎていき、トランペットが遠く響く音とともに消えていきます。

 第4曲 黄昏のメディチ荘の噴水

ローマ市街を見渡せるメディチ荘の庭園にある噴水。夕暮れが近づき、小鳥のさえずりや木々のざわめき、空が暗くなってくる情景が表されます。夜が来てフルートが奏でる鳥の声もなくなり、最後は鐘の音とともに静かに消えていきます。

レスピーギ  交響詩「ローマの松」

レスピーギのローマ3部作の第2作で、前作の噴水から7年おいて、1923-1924年に作曲されました。ローマの松は日本の松とは様子が異なり、ひょろっと高い幹の上の方にモコモコと葉がついている、という不思議な形をしています。ローマの街を歩いているといたるところにこの松が生えていて、ローマのシンボルとも言えます。このように街の風景に溶け込んでローマの長い長い歴史の中で時代の移り変わりをずっと見守ってきたことでしょう。そんな松が見てきた風景・歴史を、4つの名所に当てはめて音楽にしたものです。

噴水と同じく全体は4部構成で、連続して演奏されます。各曲の解説には、レスピーギ自身の説明を添えています。

 

第1曲 ボルゲーゼ荘の松

“ボルゲーゼ荘の松の木立の間で子供たちが遊んでいる。彼らは輪になって踊り、兵隊遊びをして行進したり戦争している。夕暮れのツバメのように自分たちの叫び声に興奮し、群をなして行ったり来たりしている。”

 

スペイン広場の北東にある公園の松です。冒頭、弾ける音のシャワーのように派手に始まります。子供達が叫びながら遊びまわっている様子を表現しているため、とにかく音が高い!いつもは低音のファゴットやチェロも高音でがんばります。コントラバスは出番なしです。

 

第2曲 カタコンバ付近の松

“カタコンバの入り口に立っている松の木かげで、その深い奥底から悲嘆の聖歌がひびいてくる。そして、それは、荘厳な賛歌のように大気にただよい、しだいに神秘的に消えてゆく。”

 

カタコンバとは異教徒として迫害されたキリスト教徒の地下墓地のこと、その入り口に立つ松です。重々しく荘厳な雰囲気の中、天上からグレゴリオ聖歌が聞こえてきます。この聖歌はトランペットが舞台裏から演奏します。地下からは祈りの歌が聴こえてきます。それがだんだん熱を帯び大合唱になりますが、やがてまた静かな墓地に戻ります。

 

第3曲 ジャニコロの松

“そよ風が大気をゆする。ジャニコロの松が満月のあかるい光に遠くくっきりと立っている。夜鶯(ナイチンゲール)が啼いている。”

 

ローマの街を見下ろせる景色の良い丘に立つ松。月の光がキラキラと降り注ぐかのようなピアノのアルペジオから始まります。深夜、満月の光が1本の松を照らす幻想的な景色の中、クラリネットが静かな美しいメロディを奏でます。やがてナイチンゲールの声が聴こえ、夜明けが近づきます。

鳥の声は録音を使用しており、昔はレコード、現在ではCDで流します。

 

第4曲 アッピア街道の松

“アッピア街道の霧深い夜あけ。不思議な風景を見まもっている離れた松。果てしない足音の静かな休みないリズム。詩人は、過去の栄光の幻想的な姿を浮べる。トランペットがひびき、新しく昇る太陽の響きの中で、執政官の軍隊がサクラ街道を前進し、カピトレ丘へ勝ち誇って登ってゆく。”

 

アッピア街道はローマからイタリアの南端まで約560kmに渡る長い道で、古代では戦いに勝ったローマ軍が凱旋した道です。街道の両側には松がそびえ立っています。朝もやの中、静かな街道の遠くからローマ軍の足音がかすかに聞こえます。ローマ軍が近づくに従い足音は次第に大きくなり、勇壮なトランペットのファンファーレと共にローマへと入っていきます。ステージ外で演奏するバンダも入り壮大なエンディングを迎えます。

 

様々な演奏効果を用いており、オルガンやハープ、チェレスタ、ピアノなど大編成で豪華絢爛、かつドラマティック、生で聴いて良かったと思える1曲です。古代ローマを想像しながら、音の洪水に身をゆだねてください。

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